認知症はもう怖くない ㉑
「全身の肥満」よりも「腹部の肥満」が危ない
米国のオークンドの研究チームによって、40代前半に腹部肥満だった人は、70代になって認知症を
発症するリスクが、そうでない人に比べて2〜3倍も高いというデータが発表されています(Neurology
2008;71:1057-1064)。
全身が高度に肥満で腹部肥満もあるという最悪の場合は、どちらもない人に比べ、リスクは3.60倍に
跳ね上がりました。
このデータは、全身の肥満度ではなく、「腹部の肥満」が特に認知症のリスクを高めるということを
示唆しています。
腹部の脂肪は他の場所の脂肪と違い、インスリン抵抗性を高めることがわかっています。
インスリン抵抗性は糖尿病、肥満、メタボリック症候群をはじめたくさんの疾患を引き起こします。
前述したように糖尿病は認知症発症の危険因子です。
このように、インスリンがコントロールできないと糖尿病、肥満(腹部肥満)になり、やがては認知症に
なるリスクが高くなるということを示唆しています。
歩くスピードの遅い人のほうが発症する確率が高い
心肺機能を高めることから、ひところ、ジョギングが流行し、やがてそれが各地の「ご当地マラソン
大会」へと発展したといわれています。
その一方で、高齢者にとって走ることは、膝や脚など、やはり身体にとっての負担が大きいためか、
最近ではジョギングではなくウォーキングを楽しむ人が増えています。
米国ボストン・メディカルセンターのグループが「フラミンガム・ハート・スタディ(FHS)と命名された
アメリカの国家的調査研究で、歩く速度と握力で、将来、認知症や脳卒中になりやすいか
どうかがわかると発表しました。(International Journal of Cardiology 2014;172:96-102)。
歩くスピードが遅かった人は、速かった人に比べて認知症の発症リスクが1.5倍も高かったと
いうことがわかりました。
頭部MRI検査で、歩くスピードが遅い人は早い人と比較して、大脳の総面積が小さく、さらに記憶や
言語、意思決定などの認知力テストの成績が低いという傾向も判明しました。
同様に、握力の強さも大脳の総体積の大きさと関係があり、握力が強いほど認知テストの得点が
高い傾向があったということが判明しました。
このデータは、歩くスピードは遅くて握力が弱い人は認知症になりやすいということを示唆しています。
週3回以上の運動の習慣化により認知症出現率が0.62倍にまで低下したという報告です。
以上の二つの調査結果から導きだせるのは、軽い運動が有効であることと、同じ歩く行為であっても、
速く歩くことで血流が向上し、脳のシナプス活動が活性化し、認知症予防に効果がありそうだ、
ということです。
この続きは、次回に。