池上彰のやさしい経営学 1しくみがわかる ⑩
輸出奨励金では国は豊かにならない
アダム・スミスは、輸出を増やすことによって国が豊かになることは認めていますが、輸出を
増やすために輸出を行う企業に国が補助金を出す「輸出奨励金制度」は批判しています。
そもそも奨励金をもらわなければ輸出できないような産業は、補助金なしでは海外のライバルに
太刀打ちできないということです。
経済力の弱い企業にお金を与えることは、結果的に利益が得られない産業に富が使われている
ことになる。それは資源の無駄遣いだと考えたのです。
また、国からの補助金を目当てに生産性の低い産業に企業がどんどん参入したら、支払う補助金が
増えていく一方で、生産性の低い産業に企業が集まってしまいます。
それは国全体にとって決していいことではない。
自力でほかの産業に太刀打ちできなければそれは仕方がないことだ。
強い産業に人やお金が流れていくことが、結局は社会全体の資源配分の最適化につながるのでは
ないか。これがアダム・スミスの考え方です。
経済学は資源の最適配分を考える学問だという話をしましたね。
アダム・スミスは、国が口を出したりしないでそれぞれ自由にやらせていれば、結果的に資源が
最適に配分されると考えました。つまり市場=マーケットを大事にするということです。
さまざまなものの売り買いをして値段が決まっていく市場(シジョウ)を大事にすれば結果的に
経済が豊かになる、奨励金のような余計なものは不要だということです。
輸出奨励金制度:輸出を増やすために輸出をする企業に国が補助金を支給する制度。
アダム・スミスはこれを批判した。
生産性を高めるために分業を考えた
アダム・スミスは、富を増やす具体的な方法を考えました。
生産性を高めるための分業です。
たとえば、パンをつくるためには小麦粉が必要ですよね。
まず自分で小麦を植えて、小麦の収穫をし、それを小麦粉にし、パンを焼いて、それに甘いものを
つけたりフルーツをつけたりしてようやく売りに出す。
1人でやれば1年がかりです。小麦を専門に作っている農家がいるから小麦が大量にでき。
それを碾いて小麦粉にして売る人がいるからこそ、パン屋さんは小麦粉を買ってきて、こねて
パンを焼くことができる。
社会的にさまざまな分業、仕事をしている人たちがいるおかげで、パン屋さんがたくさんのパンを
焼いてみなさんにそれを売ることができるわけです。
分業:生産の過程をいくつかに分けて分担し、全体の生産性を高めること。
この続きは、次回に。