池上彰のやさしい経営学 1しくみがわかる ⑭
資本家の経済活動
「資本家」とは、資本をお金の集まりだと考えると、お金を持っている人のことです。でも、
ただお金を持っているだけの人は資本家とは言いません。
それは単なる財産家、大金持ちということになります。
経済学における資本家というのは、持っているお金を何か新しいことに使って増やそうとする
人たちのことを言います。持っているお金あるいは財産を増やそうとさまざまな仕事を始める、
新しい事業を始めようとする人が、経済学でいう資本家ということになります。
資本家:お金(資本)を出して労働力を使い事業を行ってお金を増やそうとする人。
資本家と労働者の関係は対等なはずである
今度は労働者を雇うことになります。
あなたの給料はこれだけですよ、と提示して労働者を採用する。
その会社に就職するかしないかは、労働者の自由です。
いいですよと働く以上、本人が納得して働いていることになります。
そのときに労働者に支払われる賃金は、労働力の価値ということになります。
なぜ利益は生まれるのか?
利益は誰がつくり出したものでしょうか。
工場の設備だろうか、材料だろうか。いや、労働力だろう。
労働者が働いたからこそ、これだけの利益が生まれるんだろうとマルクスは考えたわけですね。
資本家が労働者を雇って働かせることによって、新しい利益が生まれます。
対等な立場で労働者を雇って、労働力の分だけのお金を払っていながら、利益を生み出した。
こうやって資本家がこの利益をまた投資して、さらに原材料を買い、労働者を雇い、企業はどんどん
大きくなっていく。労働者の労働によって生まれたこの利潤こそが資本主義を大きくしてきた
ものだと、マルクスは考えました。
利潤: 売り上げから経費を差し引いた利益のこと。
労働力の値段は労働力の再生産費である
では、その労働者に払う賃金は、どうやって決まるのだろう。
これは労働者の値段ですよね。工場の設備の値段は、その設備をつくるのに投じられた労働力の価値です。
綿などの原材料は、原材料をつくり出すのに投じられた労働力によって生まれている。
では労働者の労働力というのはどうやって生まれているのでしょうか。
労働力の再生産費という考え方があります。
労働者が、例えば朝9時から夕方5時まで働いた、終わってくたくたになって帰った、でも翌日
また元気に会社に来て、また働く。一晩のうちに元気が戻っていますね。これが労働力の再生産です。
その労働力の再生産のために必要な費用=労働力の再生産費、これが労働者の値段なのだとマルクスは
考えたんですね。
食事をとる→睡眠をとる→仕事をする→遊ぶ→食事をとる—-循環する。
労働力の再生産費:労働力を再生産するために必要な費用。食費や家賃といった生活費、
子どもの養育費など。
労働力の賃金=労働力を再生産するための費用です。
資本家は労働者を「搾取」している
マルクスは、資本家が労働者を働かせて払った労働賃金以上の利益が生まれるのは、これはつまり、
資本家が労働者を搾取しているのだと考えました。
搾取の「搾」は搾るという意味ですね。搾り取るということです。
とりあえず労働者を働かせて資本家が生み出した新しい価値があるとしましょう。この中には
「必要労働」と「剰余労働」があると考えます。
労働者が働いて利益が生まれますが、その利益のかなりの部分は労働者への給料として支払われますね。
これが「必要労働」になります。必要労働時間によって生み出された価値の部分は労働者への
給料として支払われます。一方、労働者が働くことによって新しく生み出した価値の部分がありますね。
これが「剰余労働」ということになります。
搾取:労働賃金以上の利益を資本家が無償で取得すること。
必要労働/剰余労働:必要労働の価値は労働力の再生産のために賃金として支払われる。労働者が
これを超えた剰余労働を行うことで、剰余価値をつくり出す。
必要労働=労働者への給料 剰余労働=資本家の利潤
工場設備費+材料費+「賃金=労働力の再生産費」+利潤
↓
① 賃金+利潤は、労働力が生み出している。
② 利潤は、資本家が労働者から搾取している。
この続きは、次回に。