池上彰のやさしい経営学 1しくみがわかる ⑱
消費性向が高まれば乗数効果があがる
ではそのとき、財政支出をしたらどれくらいの経済効果があるのだろうか。
これを「乗数効果」と言います。乗数とは掛け算のことですね。
投資額に対し、全体としていくらの経済効果があるか。これが乗数効果です。
乗数効果を大きくするためには、高い「消費性向」が必要になります。
消費性向とは、お金をもらったら、そのうちのいくらを使うかということです。
消費性向が高まれば乗数効果も上がるという関係です。
この消費性向が高まれば高まるほど景気はよくなるということです。
みんながすぐにお金を使えば、景気への効果が大きいことになります。
消費性向を高めることを景気対策として考えれば、景気をよくすることができるようになるわけです。
乗数効果:公共投資で需要をつくり国民所得を増やす効果
消費性向:家計所得のうち消費に使われる割合
貯蓄性向を抑えるための累進課税
入ってきたお金の何割を消費に回すか、これが消費性向ですが、どれだけ貯蓄に回すのかを
貯蓄性向と言います。貯蓄性向は消費性向と対立します。
貯蓄性向を下げ、人々が消費性向を高めていくように誘導すれば景気対策になります。
そのためにケインズが考えたのが、お金持ちから税金をたくさんとる「累進課税」です。
累進というのは次第に増えていくという意味で、金持ちになればなるほどかかる税率が高くなります。
貯蓄性向:家計所得のうち貯蓄の割合を示すもの。
累進課税:所得が多くなればなるほど税率が高くなる。
人間はみんなお金が好きである
合理的経済人だと、人間はみんなお金が好きだということになります。
世の中には「お金なんかいらない」という人もいるでしょうけど、一般的には多くの人は
正当に働いてお金を増やしたいと思っているに違いないということを前提に、ケインズの
経済理論を組み立てられています。
これを「流動性選好」と言います。流動性を選り好みするという意味です。
流動性嗜好:人々が他の資産よりお金(現金)を持ちたがること。
日常の取引に便利、予測できる出費に備えられる、資産価値が減ることがないなどの理由がある。
金利を下げて企業の新たな投資を増やす
経営者は銀行に預けているよりも儲かることができると考えたときに、新しい事業を始める。
ケインズは、利潤率が利子率よりも高ければ企業は事業への投資を始めると考えました。
利潤率とは金儲けです。人為的に利子率を下げれば結果的に利潤率のほうが高くなるから、
経営者はお金を借りてでも新しい事業をしようという気になる。したがって、景気が悪いときには、
金利を下げればいいということになります。日本の金利が悪くなり日本銀行がどんどん金利を下げ、
結果的に金利がほとんどゼロになりました。
利潤率:総収入から総費用を差し引いた儲けの率
ゼロ金利政策:1999年、日本はゼロ金利政策を導入、その後、解除と導入を繰り返している。
この続きは、次回に。