超ロジカル思考 「ひらめき力」を引き出す発想トレーニング⑰
・ ペプシ一人負けの真相
さて、ここまでがマーケティング理論の古典と言われるコーラ戦争である。
さまざまな軸を持ち込み消費者を分類し、ターゲットと定めた層の内面を理解することで、
より効果的なメッセージを送れるようになる。そして、それによって彼らの行動を変えることが
可能なことについて述べてきた。このアプローチをマスターできたかどうかを確認するために、
ここでもうひとつエクササイズをやりたい。ここで取り上げるのはもう少し最近の話だ。
2010年は、ペプシコ社の飲料部門にとっては厳しい年になった。
主力ブランドであるペプシコーラとダイエット・ペプシの米国国内売上数量が、それぞれ4.8%と
5.2%減少したのだ。炭酸飲料全体では0.5%の現象であったことから、その影響の大きさがわかる。
特に、ペプシコーラはダイエット・コークに順位を逆転され、第3位まで後退した。
一方のコークとダイエット・コークには、前年比で大きな変動は見られていない。
目隠しされればほとんど区別のつかない商品であるにも関わらず、ペプシだけがひとり負け
しているのだ。ちなみに、米国のノンアルコール飲料全体(炭酸飲料、水、ティーなど)は、
2010年は1.2%伸びた。
主として紅茶・コーヒー系の飲料、スポーツドリンク、エネルギー補給飲料などが成長に寄与した。
さて、ここで、起こっていることに先ほどと同じように図で表現するとどうなるだろうか。
またエクササイズに取り組んでみよう。
Exercise 5-5
2010年にペプシがひとり負けになっている状況を、これまでと同じように図で表現してみましょう。
なぜペプシだけが大きくシェアを落としているのかを説明できたでしょうか?
右頁の図を見てもらおう。上の図はペプシ・ジェネレーションのときの構図である。
ここでは、ペプシが挑戦的な若者を切り分け、惹きつけることに成功した。
ところが、この若くて挑戦的な層をターゲットにしたことが、ペプシ・ジェネレーションの
成功要因にもなり、2010年時点で苦戦する原因にもなっているのだ。
挑戦的な若者とは、何でも新しいことを試してみたいと人たちである。
それが、ペプシ・ジェネレーションのときに真っ先にペプシに飛びついて理由である。
ところが、この層は「浮気しやすい層」ということもできる。
最近になって新たに登場してきたエネルギー補給飲料やスポーツドリンクに真っ先に反応したのも
この層です。一方、ペプシ・ジェネレーションのときに、結果的に保守的な層の顧客が
コーク側に残った。この層はいわゆる「鉄板」といわれる層で、エネルギー補給飲料が来ようと、
スポーツドリンクが来ようと、容易にはなびかない層だ。
この拠って立つ顧客そうの違いが、同じような飲み物であるにも関わらず、ペプシだけが
ひとり負けするという現象を生み出したのだ。
・ 製品を見ていても、答えは出ない
ここで注意しなければいけないのは、製品を見てはいけないということだ。
製品を見ていると、顧客のうごきが見えにくくなる。
顧客を見ることで、製品の売上変動の裏側に働く力が浮かび上がってくる。
だからこそ、セグメンテーションは顧客の分類でなければならないのだ。
先のエクササイズをやってもらうと、「炭酸飲料か非炭酸飲料か」と言った軸を持ち込む人が
多いが、それは製品の分類であって、顧客の分類ではない。
そのような見方をすると、なぜペプシだけが売上を落としているのかが見えにくくなる。
現象の背後にある顧客の動きを捉えないまま答えを探すと、本質から外れた施策を打って
しまうことが多い。
以上、顧客に目を向けること、顧客を分類することの重要性について述べてきた。
コトラーの金言を引用すれば、「市場の変化とは、本質的に顧客の行動の変化です。
新しい価値をどこに見出していくのか、何が大切だと考えるようになるのか。
顧客の動きを察知し、価値の再定義を急がなければなりません」ということになる。
この続きは、次回に。