超ロジカル思考 「ひらめき力」を引き出す発想トレーニング㉕
・ リー・クアンユーの教え
「志を持てば人気取りは必要ない」
Lee Kuan Yew
次に紹介する天才は、「シンガポールの哲人」と呼ばれたリー・クアンユーである。
リー・クアンユーはシンガポールの初代首相である。
1965年にマレーシアから追放される形で独立して以降、東南アジアの中心、マラッカ海峡の
交通の要衝としての立地を生かし、シンガポールを世界経済のハブにまで押し上げた。
今やシンガポールの一人当たりGDPは、日本を上回るまでになっている。
独立当初は、天然資源どころか水すらも十分にない島国を預かり、リー・クアンユーは不眠症で
倒れることもあったという。しかし、その後、「他の国が必要とする国になる」「我々にあるのは
戦略的な立地条件と、それを生かすことのできる国民だけだ」というモノの見方に至り、次々と
施策を具現化していく。
※ 省略致しますので、購読にてお願い致します。
リー・クアンユーが国民の資産形成や生活水準向上、教育や自治の問題に注力したのは、
先にも述べたように、社会的責任を担える国民をつくることが、「他の国が必要とする国になる」
ための必要条件と考えたからだ。
リー・クアンユーは、経済やビジネスにとって「信用」が最も重要なものであることを知っていた。
他の国から必要とされる国になるためには、信用されるに足る国民がいなければならない。
それは次の発言からも伝わってくる。
「周辺国の制度がクリーンでなかったので、我が国は制度をクリーンにした。
周辺国の法治制度は不安定だったが、我が国の法治制度はゆるぎなかった。
いったんわが国で合意や意思決定がなされたら、必ずそれを守る体制をつくったのだ。
おかげで、わが国は投資家にとって信用できる投資先になった」
「わが国は国粋主義になろうとする傾向に抵抗する必要がある。
考え方も行動も国際的にならなければいけないのだ。
外国に行かせたり、外国人と交流させたりして、世界レベルに追いつくように、わが国の人材を
育てる必要がある。」
資源もない国が生き残るためには、現状に安住していてはいけない。
絶えず革新と起業家精神を持ち続けることが重要だ。
そのためには視野を世界に開き、世界中の人材と切磋琢磨することが必要だということだ。
それができれば、激しく変化していく情報革命後の時代を、逆にチャンスと見ることができるように
なる。リー・クアンユーの好きな言葉は「サバイバル」だという。
Exercise 7-5
民主主義の功罪について考えてみてください。
リー・クアンユーはなぜ民主主義に対して懐疑的だったのでしょうか?
リー・クアンユーは、絶対的な善などないと考えていたようだ。
物事には必ず正の面と負の面がある。絶対的に正しいことを探そうとするより、物事の陰陽を
正しく理解し、賢く利用することが政治的な成果につながると考えていた。
「個人は本当に平等なのか?」「大衆は感情で動く。その結果、統制がとれなくなることがある」。
こうした認識から、「国家の発展には民主主義より規律が必要だ」といってはばからない。
このため、教育に注力する一方で、「罰金国家」と揶揄されるまでに規律を浸透させた。
リー・クアンユーは、民主主義が成り立つかどうかは、「個人の最大の自由が、他の人の自由とともに、
社会の中で共存できるかどうかだ」と言っている。
個人主義や自由競争が行き過ぎると混乱が生じ、社会全体が病んでしまう。
いくら理念がすばらしくても、国民がそれについていけなくなれば国は滅びる。
そのため、社会の秩序を守るために、リーダーに指導力が求められることを説いている。
「儒教思想の根底にあるのは、上に立つものは大衆の利益を知り、個人の利益よりも社会の利益を
優先させるということだ。
これは個人の利益を優先させるアメリカの原則とは異なる」
ただ、そう発言する一方で、シンガポール国民にアメリカの自立心、進取の精神を見習うよう
指導することも忘れていない。
「私が学んだことは何か。それは人間や人間社会の持つ両面性だ。
向上する可能性もある反面、後退や崩壊の怖れが常につきまとう。
文明社会がいかに脆弱か、私は知っている」
リー・クアンユーはこうした人間観に基づき、必要と考えれば不人気な政策を打つことをいとわない。
「志を持てば人気取りは必要ない」とまでいい切っている。その一方で、決して無理はしない。
一足飛びに理念を実現しようとするのではなく、時間をかけて環境づくりをしていくことを怠らない。
「要は急がば回れだ。過去につちかってきた習慣や既得権を捨てたがる人はいない。
ただ、一国として存続するには、ある種の特色、共通の国民性を持つ必要がある。
圧力をかけると問題にぶつかる。だが、優しく、少しずつ働きかければ、同化はせずとも、
やがて融合するのがものの道理だ」
人間の内面をよく理解しているがゆえに、成果を焦らず、多くの人がついていけるスピードで
変革を実行していくのだ。
派手さはないが、後から振り返ってみると、着実に成果を上げてきたことがわかる。
リー・クアンユーの首相退任時の次の言葉に、彼の思いがこめられていると言えるだろう。
「いえることはシンガポールを立派な国にしようとベストを尽くしたということだけだ。
人々がそれをどう評価するかは自由だ」
Exercise 7-6
リー・クアンユーが今の日本の首相だったとしたら、将来の日本の可能性をどのように見るでしょうか?
日本が他の国から必要とされるために、彼が何を実行するか考えてみましょう。
また、その際に、日本の強みになるものは何でしょうか?
この続きは、次回に。