ビジネススクールでは学べない世界最先端の経営学 ⑦
✔️ チェンバレン型の崩壊に対応できない日本企業
先にも述べたように、これまで成功してきた日本企業の業界の多くは、チェンバレン型にありました。
例えば家電業界です。
図表3-1 競争戦略「競争の型」の関係
※ 省略致しますので、購読にてお願い致します。
リアル・オプション戦略—常に不確実な事業環境に、素早く柔軟に対応する。
RBV戦略—価値があり模倣されにくい経営資源を形成・活用する。
SCP戦略—競争環境の参入障壁・移動障壁を高め、ライバルとの競争を避ける。
しかし近年、日本の家電メーカーにとっての有望市場は海外にシフトしています。
そして海外各国の家電市場を見渡すと、その多くの競争はチェンバレン型ではありません。
例えば中国・インド・東南アジアなどの新興国市場では、消費者のボリュームゾーン拡大と
地場企業の台頭により、高機能製品の競争ではなく、「普及品をボリュームゾーンに売る」
「高い販売シェアで小売に強い交渉力を持ち店舗の棚を確保する」「消費者のプランド認知を
高める」といったことが重要になっています。すなわち、競争がIO型に近いのです。
IO型競争で有効なのはPBV的な戦略ではなく、ポーター的なSCP戦略です。
すなわち、それぞれの国・市場で「コストリーダー」か「差別化」なのか、はっきりした
ポジションを取ることです。
もしコストリーダーを取るならば、例えば「規模の経済を追求して、性能が限定的な普及品を
低価格で大量に売る」という戦略を明確に打ち出す必要があります。
逆に差別化を選ぶなら、ブランドによる徹底した訴求が重要になります。
従って、日本で使ってきた以上に広告・各種販促活動に予算を回す必要も出てきます。
しかし、そもそも国内でチェンバレン型競争をしてきた日本企業は、このSCP戦略の主張する
「割り切ったポジショニング」が得意ではありません。
日本企業が国内でチェンバレン型競争をしてきたことを考えれば当然の感覚なのでしょうか。
しかしIO型の競争になるとそのままではうまくいかないのです。
✔️ シュンペーター型では戦略を立てる意味がない
他方で家電業界の中には、スマートフォン(スマホ)やウエアラブル端末など、ハイエンドな製品を
主軸にしようとする企業もあります。
このハイエンド製品では技術確信のスピードは依然よりさらに早くなっており、しかも競合企業は
米グーグルだったり、米シリコンバレーや中国の新興IT企業であったりすることすらあります。
すなわち、シュンペーター型の競争をしているのです。
そして、この不確実性の高いシュンペーター型競争では、ポーターのSCP戦略やRBVに基づいた
戦略は通用しなくなります。なぜなら、この手の戦略は「競争環境が当面変わらない」
「顧客ニーズに対応するための自社の強み(リソース)は、当面変わらない」といった前提で
立てられるからです。すなわち、不確実性がある程度低いときにだけ有効な戦略なのです。
不確実性が低いから「それなりに将来が見通せる」ので、戦略・事業計画が立てられるのです。
しかしシュンペーター型競争では、そういった前提が通用しません。
このシュンペーター型の競争で必要なのは、SCPやRBVと異なる戦略です。
経営戦略でいえば、例えばリアル・オプションを基礎においた考えは有用かもしれません。
✔️ リアル・オプション的な思考の有用性
リアル・オプションについては経営学ミニ解説2で詳しく紹介しますが、これは事業環境の不確実性が
高いことを前提にした考えです。
その合意を平たくいえば、「不確実性の高い時には、とにかくまずは少額でもいいから投資を
したり、小ロットでいいから製品・サービスを市場に出したりしてみよう」という感じでしょうか。
不確実性が高いのですから、そもそもどのような製品・サービスが当たるのか、どのように
技術が有用になるのか、誰にとっても判断するのが難しい状態です。
ですから、小規模・小ロットでいいから、まずは素早く投資をしたり製品・サービスをローンチ
したりして、反応を見ることが重要なのです。
もちろん不確実性が高いのですから、こういった行動の多くはうまくいきません。
しかし、少額投資であればダメージは大きくありません。
製品・サービスも、小ロットならすぐに販売中止ができるので、痛みは小さくて済みます。
他方で、不確実性が高いということは「上ぶれのチャンス」も大きいということですから、
当たったときのリターンは非常に大きくなります。
2011年に米国の起業家エリック・リース氏が上梓した『リーン・スターアップ』(翻訳書は
日経BP社)という本が日本でも話題になりましたが、これはまさにリアル・オプションに近い発想です。
シュンペーター型競争の聖地とも言えるシリコンバレーで起業して成功すれば、その発想が
リアル・オプションに近づくのは当然かもしれません。
ホームページより抜粋—
ローンチとは、新しい商品やサービスを世に送り出すことである。
日本語では「立ち上げ」「公開」「開始」「発進」などの語が相当する。
ローンチという表現は、WebサイトやWebアプリケーションを新たに公開する場合などで
用いられている場合も多いが、それだけでなく、新商品や新サービスの公開という意味で一般的に
用いられている。
✔️ 競争の型を狭めるパナソニック、広げたまま進むソニー
このようにシュンペーター型競争で求められる戦略は、SCPともRBVとも異なります。
そして、それを「じっくりと経営資源を育てあげる」チェンバレン型で戦ってきた日本企業が
採用するのは、非常に難しいのです。
私はどちらかといえば「ソニーの近年の改革の方向性は必ずしも悪くない」と考えている一人ですが、
他方でこのように異なる競争の型を持つ業種を内包しながら全体をマネージしなければならない
ところに、今後の同社が直面する経営のチャレンジがあるといえるでしょう。
競争の型が違えば、求められる戦略は異なるのです。
それを理解せずに戦略を適用している限り、いつまでも「戦略がうまくいかない」のは当然なのです。
ぜひみなさんもご自身の業界の「競争の型」を客観的に眺めてみることをお勧めします。
この続きは、次回に。