ビジネススクールでは学べない世界最先端の経営学 ⑮
✔️ まだ理論化していない「デザイン思考」
もう一つ、「アーキテクチュラルな知」を高めるために大事な点があります。
それは、「最適な『組み合わせ』を見出し、まとめあげる力」です。
いうなれば「デザイン力」です。
実は最初に紹介したヘンダーソン=クラーク論文の「アーキテクチュラルな知」の考えは、
エンジニアリング・デザインの研究に起源があります。
そしてここでいう「デザイン」とは、製品・サービスデザインにとどまらず、より広義の
「組織のデザイン」までを意味します。というのも、これまで述べたように、組織構造・ルールは
製品のドミナント・デザインにしたがう傾向があるからです。
「アーキテクチュラルな知」を高めるためには、そのための組織デザインが重要だからともいえます。
実は、「製品デザイン力を高めるための組織デザイン」についての研究は、世界の先端の経営学でも
研究蓄積が十分ではない、というのが私の認識です。
※ 省略致しますので、購読にてお願い致します。
研究よりも先行しているのは、ビジネススクール教育かもしれません。
例えば米スタンフォード大学ではビジネススクールとエンジニアリングスクールが協力して、
デザインスクールを立ち上げました、
米マサチューセッツ工科大学(MIT)はロードアイランド・スクール・オブ・デザインと、
米クレアモント大学はインスティチュート・オブ・アートと共同プロジェクトを持っています。
日本でも慶應義塾大学がシステムデザイン・マネジメント研究科を立ち上げました。
第1章で「最先端の経営学の知見はビジネススクールでも学べない」と述べましたが、逆に
この分野では、デザインスクールと連携することなどで「ビジネス教育」が研究より
先行しているのかもしれません。
私は「経営学分野」と「デザイン分野」の共同研究が進むことを期待する一人です。
ここまで議論したように、イノベーションの源泉の一つは新しい組み合わせを生み出せる
「アーキテクチュラルな知」であり、そしてその源泉は広義のデザイン思考だからです。
デザインスクールの協力が進むことで、そこで得られた「デザインの実践知」が経営学に還元され、
イノベーションを生む組織デザインの研究がさらに進むことに期待したいところです。
第7章 「チャラ男」と「根回しオヤジ」こそが、最強のコンビである
本章でも引き続き、イノベーションについて先端の経営学の知見を紹介していきます。
さて最近は、イノベーションと並んで「クリエイティビティー(創造性)」
という言葉も、
ビジネスメディアでよく使われるようになりました。
人の創造性はある意味イノベーションの源泉ですから、これは当然かもしれません。
✔️ 「イノベーション」と「創造性の違い」とは
しかし、ここで私が問題提起したいのは、多くの方々が「イノベーション」と「創造性」を、
同じ意味合いで使っていることです。
実際、「創造的な人=イノベーションを起こせる人」というのが、世間一般のイメージでは
ないでしょうか。
実は欧米を中心とした世界の経営学では、近年、「創造性」と「イノベーション」を明確に
区別した上での研究が増えています。
そしてそれらの結果を総合すると、実は「創造的な人ほどイノベーションが起こせない」という
結論すら得られるのです。なぜこのような結論になるのでしょうか。
逆に、日本企業はこの課題をどう克服すればよいのでしょう。
本章は「イノベーションと創造性」について、世界の経営学における近年の研究成果を
紹介しながら、日本企業への示唆を考えてみましょう。
✔️ 創造性の基本条件は「新しい組み合わせ」
まず、創造性(クリエイティビティー)から始めましょう。
言うまでもなく、これは「新しいアイデアを生み出す力」のことです。
では新しいアイデア・知はどうやって生まれるのかというと、それは第5章で述べたように、
「既存の知」と「別の既存の知」の「新しい組み合わせ」です。
人間はゼロから新しい知を生み出せませんから、それは既にある知同士が新しく組み合わさる
ことで起こるということは、第5章で詳しく紹介しました。
したがって、企業・個人が新しい知を生み出すには、なるべく自分からは慣れた遠い知を
幅広く探し、それを自分が持つ知と組み合わせることが求められます。
それが「知の探索」です。
さて、この知の検索の手段について、経営学には多くの研究成果があることは第5章で述べました。
しかし、そこでは語りきれなかった有用な手段が他にもあります。
なかでも経営学者が重視している一つが、「人のつながり・人脈」、すなわち人のネットワークです。
今回はなかでも1977年に米スタンフォード大学のマーク・グラノベッターが提示して以来、
世界のネットワーク研究の中心命題となっている「弱い結びつきの強さ(Strength of weak ties)」に
焦点を当てましょう。
この続きは、次回に。