ビジネススクールでは学べない世界最先端の経営学 ㉘
経営学ミニ解説 5 AAA分析
第13章で述べたように、元ハーバード大学のパンカジュ・ゲマワットの分析などから、いま世界は
完全なグローバル化からはほど遠く、むしろセミ・グローバリゼーション(中途半端なグローバル化)の
状況に近いことが分かっています。
逆に言えば、企業もこの「世界は中途半端なグローバル化にある」という前提を元に、海外事業戦略を
再考する必要があるといえます。
例えばゲマワットが提示しているのは、「AAA(トリプルエー)」というフレームワークです。
これは以下の三つのAで始まる戦略的方向で構成されます。
集積(Agglomeration)
生産・開発拠点などを一刻に集中させ、スケールメリット・集積による学習効果を高める。
適応(Adaptation)
一国一国の顧客や経営環境の違いに、細かく対応することに注力する。
裁定(Arbitrage)
労働コストの低い国に生産拠点を移すなど、国と国の格差をあえて活用する。
AAAフレームワークは、「世界が中途半端なグローバル化」だからこそ重要な視点です。
世界が完全に統合されていないから、特定の国を選んで「集積」するメリットが出てきます。
国同士に差異があるから、各国事情に合わせた「適応」戦略が必要になるし、「裁定」のメリットも
出てくるわけです。世界のグローバル化は今後も当面は「中途半端」でしょうから、AAAの視点は今後の
日本企業の海外展開に有用でしょう。
ここで大事なのは、AAAのうち「どれを選び、どれを組み合わせ、どれを捨てるか」のメリハリを
つけることだと、私は考えています。
ゲマワットも「ハーバード・ビジネス・レビュー」に掲載した論文で述べていますが、3つのAは
トリレンマの状況に近く、すべてを同時に追及することはきわめて難しいからです。
この意味で岐路に立たされているのは、日本のメーカー、例えば機械・電機メーカーかもしれません。
同業界の企業の多くは、これまで本社に優秀な人材が集まっていて(=集積)、他方で中国・東南アジアでの
生産によるコスト競争力の向上(=裁定)を進めてきました。
しかし近年になって、生産移管したアジアの国々がむしろ成長市場となっており、その国の消費者特性に
合わせた戦略に注力する必要も出てきています(=適応)。
すなわち、三つのAを同時にバランスさせようともがいているのが、現在の日本メーカーの苦戦の背景の
一つと言えるかもしれません。
次の図表はその状況を表しています。
図表V AAA分析と日本企業のポジション
※ 省略致しますので、購読にてお願い致します。
したがってこう言った企業が検討すべきは、少なくともどれか一つのAを放棄してメリハリをつける
ことでしょう。
実際、今注目されている企業には、メリハリのある「AAA戦略」が目立ちます。
※ 省略致しますので、購読にてお願い致します。
このように、メリハリのついたAAA戦略を考えることは、皆さんの企業の海外展開戦略を深く考える上で、
有用な視座となり得るかもしれません。
この続きは、次回に。