ビジネススクールでは学べない世界最先端の経営学 ㉝
経営学ミニ解説6 組織の進化論
第13章では、ダイバーシティー(多様性)が組織のパフォーマンスに与える影響は、そう単純ではない
ことを述べました。しかしいずれにせよ、日本企業でいまダイバーシティーが注目されていることは
間違いありません。
その背景を、第13章と別の視点から探りましょう。それは「企業の成長ステージ」の視点です。
経営学にはOrganizational Evolution(組織の進化)問いう研究分野があります。
生態学の考えを応用し、組織の動態的な成長・変化と、成長ステージごとの組織のありようを研究する
分野です。
この分野の研究成果によると、組織は成長ステージなどによってバリエーション(変化)→セレクション
(選択)→リテンション(維持)というメカニズムを経験します。
まず生まれたばかりの組織・ビジネスでは、多様な人々が集まって多様な考えを生みますから、
「バリエーション」のメカニズムが働きます。
まさに変化を生みやすい状態です。実際、立ち上がったばかりの組織では、様々な人が色々な
意見を言うので、その方向性や進め方が定まらないことはよくあるでしょう。
しかし、当初は多様な考えがあった組織も、ある程度成長ステージを進むと、やりやすい事業の
進め方などが分かってくるので、特定のやり方だけが選ばれるようになります。
これが「セレクション」です。
そしてさらに組織が成長すれば、その選ばれたルールを「遵守」することが重視されだします。
すなわち「リテンション」です。
そして、このセレクションとリレクションの段階で、組織は同質(homogeneous)の人材をそろえがちに
なります。なぜなら、組織の目的・仕組みがはっきりしてきますので、似た人材だけがいた方が効率が
いいからです。しかし、組織の成長ステージがさらにこれ以上進むと、周囲の環境変化に対応できなく
なるなどの理由から、むしろ今度は再びバリエーションが必要になります。
すなわち、多様な視点や価値観を入れることで、新しいアイデアやイノベーションを生み、組織を
変化させていく必要があるのです。成長が一巡すると、バリエーションに戻る(べきだ)、ということです。
こう考えると、Organizational Evolutionの視点からは、既存の日本企業の多くはすでにセレクションと
リテンションの段階は終わっており、環境変化に対応するための「バリエーション」を取り戻す必要が
あると言えるかもしれません。
だからこそ、いま多くの日本企業でダイバーシティーが注目されるのでしょう。
逆に言えば、企業が多様性を求めるべきか否かには、その会社が成長ステージのどこかにあるのかを
見極めることが重要になります。
その点で興味深いのが、2015年前半に世間を騒がせた大塚家具の騒動です。
同社の騒ぎは、創業者でこれまでの大塚家具を築いてきた大塚勝久前会長と、後継者である娘の
久美子社長の間で起きました。世間では父娘の愛憎劇のような部分だけが注目されましたが、私は、
両者が大塚家具の成長ステージをどこを見ていたかが一つのポイントだったと考えています。
例えば勝久前会長は日経ビジネスオンラインのインタビューで「全16の店長が私の考えに賛同して
くれている。1700人いる社員のうち、ほとんどが同じ考えだ」と発言しています。
明らかに、社員の同質性を強調しています。勝久前会長は、同質な社員をまとめることでこれまで
会社を成長させることができたのでしょう。これはセレクションとリテンションが機能する同社の
従来の成長ステージでは、有効な方法でした。
しかし、もし同社の成長が踊り場に来ていて、むしろバリエーションのステージに戻った方がいいので
あれば、社員・経営陣の同質性はむしろ足かせとなります。久美子社長はおそらくそう考えたのでしょう。
実際、久美子氏は例えば、「自分の言うことを100%聞く人がいいとは限らない」からと社外取締役を
入れたりしています。多様な意見を取り込む努力をしようとしているのです。
私は「両者のどちらが正しい」という議論をしたいのではありません。
ポイントは、このように多様性は企業のステージに大きく依存するということです。
みなさんの組織がセレクション段階か、リテンション段階か、あるいはバリエーション段階か、ぜひ
客観的に考えてみてはいかがでしょうか。
この続きは、次回に。