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✔️ クリステンセンが見つけた起業家の思考パターン

 

著者はこの論文は、近年の起業家精神研究の中でも特に興味深い一本だと考えています。

実はクリステンセンは著書こそ多いものの、学術誌での論文掲載数はそれほど多くありません。

クリステンセン・ファンにとっては、その意味でもこれは貴重な一本でしょう。

この研究で対象となったのは、先にも述べたような「これまでに存在しなかった製品・サービス・

技術を生み出した起業家」です。

クリステンセンたちはこれを「イノベーティブ・アントレプレナー(革新的な起業家)」と名付けました。

中でもクリステンセンたちが着目したのは、彼らの「思考パターン」です。

革新的な事業を生み出すには、人はどのような思考パターンを持つべきなのでしょうか。

この疑問に答えるため、クリステンセンたちはまず世界中の「イノベーティブ・アントレプレナー」

たちにインタビュー調査をし、そこから彼らの思考パターンに共通点を見つける人にしました。

驚異的なのは、インタビューされた22人の起業家のリストです。とにかくびっくりするぐらい豪華な

のです。一部の名前を挙げるだけでも、ジェフ・ベゾス(アマゾン)、マイケル・デル(デル・コンピュ

ーター)、ハーブ・ケラー(サウスウェスト航空)、ピエール・オミダイア(イーベイ)、ニクラス・ゼン

ストローム(スカイプ)、マイク・ラザリディス(RIM)、ピーター・シール(ペイパル)と、まさにキラ星の

ごとき著名起業家ばかりです。この豪華なインタビューシリーズは、クリステンセン教授の高い知名

度があってこそ可能だったのでしょう。いずれにせよ、これだけの起業家のインタビューをまとめて

いるというだけでは、この論文は読む価値があると思います。

インタビューの結果、クリステンセンらはイノベーティブ・アントレプレナーに共通する思考パター

ンは、以下の四つにまとめられると主張しました。

 

(1) クエスチョニング(Questioning)

現状に常に疑問を投げかける態度のことです。

中でも重要な言葉が「What if」です。

イノベーティブ・アントレプレナーたちは事業を立ち上げる前から、「もし私がこれをしたら(if)、

世の中はどうなるか(what)を考え続けるのが共通の思考パターンなのです。

 

(2) オブザーヴィング(Observing)

興味を持ったことを徹底的にしつこく観察する思考パターンです。

 

(3) エクスペリメンティング(Experimenting)

それらの疑問・観察から、「仮説を立てて実験する」思考パターンです。例えばどう論文によると、

ジェフ・ベゾスは小さい頃から自宅ガレージを「実験室」のように使っていたようです。

 

(4) アイデア・ネットワーキング(Idea Networking)

「他者の知恵」を活用する思考パターンです。例えばイーベイ創始者のピエール・オミダイアにとって

何か疑問ができたときに重要な思考パターンは、「自分がどう考えるか」ではなく、「まずこの問いを

誰と話すべきか」なのだそうです。

 

さらにこの論文では、インタビュー分析で得られた結果を踏まえて定量分析もしています。

クリステンセンたちは、この四つの思考パターンについてのアンケート調査を382人の起業家・経営

幹部(うち何割かはイノベーティブな事業を起こしたことがある)に実施し、そのデータを因子分解な

どで解析しました。その結果、やはり「これらの四つの思考パターンがある人ほど、革新的な事業を

生み出す確率が高い」との結論を得ています。

この論文はイノベーティブ・アントレプレナーの思考パターンに焦点を定めたという意味で、「起業家

精神」研究のフロンティアを切り開いたものだといえるでしょう。

 

 

この続きは、次回に。

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