人を動かす経営 松下幸之助 ⑤
第一章 信頼の経営
・ 信頼することの価値—製法の秘密を従業員に
会社や商店などにおいて、人を本当に活かすというか、その人の良さを十分に発揮して働いてもらう
ために大切なことはいろいろあろうが、一つにはやはりその人を信頼することが非常に大切ではない
かと思う。
人はやはり信頼されているとなれば、働きやすい。
疑いの目で、じっと監視されながら働くというのでは、これは誰しも十分に力を発揮できにくいで
あろう。やはり、信頼され、任されて仕事を進めていく、という姿においてこそ、誰しも伸び伸びと
自分の力を発揮してよき成果をあげていくこともできるのである。
ところが、われわれ人間というものは、なかなか容易には他人を信じないという面がある。
そこに、一つの問題があるのではないだろうか。
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私はいろいろと考えた。考えた結果、一つの結論を出した。
つまり、思い切って製法を身内だけの秘密にするのはやめる。雇い入れた人たちにも適宜教えていく。
今日入った人でも教える。そして、その人たちにも煉物の製造を担当してもらう。
このようにした。そういうようにした結果、なんとなく工場の雰囲気もより明るくなったようだ。
また、製造を担当する人たちも今まで以上に生き生きと仕事を進めてくれるようになった。
結果は良かったわけである。ところが、世の中というものはわからない。
人の見方はさまざまである。世間一般の常識的な考え方もまた根強いものがある。
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それよりも大切なことは、お互いの信頼である。私は従業員を信頼して製法を教えている。
だから、従業員もその信頼にこたえて、秘密も守り、また大いに頑張ってくれていると思う。
実際、みんな本当に一生懸命に働いてくれているのだ。
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話はこれだけのことである。しかし、問題は製法の秘密それ自体をどうするかということではない。
要は、従業員を信頼するということである。つまり、例外はあろうが、たいていの人間は、信頼され
れば裏切らない。
だから、信頼すること自体が、知らず識らず、従業員を従業員としての好ましい姿にするというか、
あるべき姿勢をとらせていくのである。
そしてそれが、人間としての一つの尊い姿でもあるのではないだろうか。
この続きは、次回に。