人を動かす経営 松下幸之助 ⑮
・ たった一度の訪問でも—区会議員に立候補して
説得の仕方にも、上手、下手があるのだろうが、一面においては、やはりそのときと場合によって、
ふさわしい説得の仕方があると思う。ときによっては、口角泡をとばしてしゃべりまくって、それで
うまく説得できることもあろうし、また場合によっては、二言三言でことが足りるというケースも
なくはないと思う。どちらがどうということはないと思う。
要は、その状況にふさわしい説得のしかたを察知することが大切なのである。
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というのは、今までこの町内から議員を出したことがなく、これがいわば初の挑戦であった。
だから選挙運動についても、いわば素人ばかりである。しかし、それだけにまた、何としてでも
自分たちの候補者を当選させてやろう、という意気込みが強かったわけである。
たとえ勝算はないとしても、最後の最後まで徹底してやろう、ということで有志全員が燃えに燃えて
いたのである。
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私は、そういう傾向があるように思えたので戸別訪問は一回だけにした。
そしてその一回の訪問のときに、誠心誠意、心をこめて意見を述べ、相手の共鳴を得るようにしたので
ある。
「私は、初めて立候補するので、区会のことをくわしくは知りません。しかし、区会議員という仕事は
非常に大切なものですから、幸い当選した場合には、一生懸命にやるつもりでおります。私は訪問は
これ一回だけにしており、もうまいりません。くれぐれもよろしくお願いいたします」というような
話をしたのである。
結果はどうであったか。実に二十八人中第二位で当選である。
予想外の好結果である。これはやはり、燃えに燃えた有志たちの運動が功を奏したわけである。
本当に熱意があった。やる気に満ちていた。熱狂的ともいえる激しい運動がくりひろげられたのである。
その結果の第二位当選だから、有志全員も私も大感激である。我を忘れて万歳の大合唱であった。
選挙運動というものは、いわば有権者に対してどれだけ説得するかということが決めてになるので
あろうから、わが陣営の説得の効果は大いにあがったわけである。
その説得は、やはり有志全員の熱意と意気、というものが大きかった。
そしてそれと同時に、候補者の有権者への個別訪問も、何度もおしかけることなく、ただ一度だけで
誠意を示したということも、比較的共感なり理解を得たのではないかという気がする。
〝過ぎたるは及ばざるが如し〟というような言葉もあるが、何度も繰り返すことが、説得の決めてに
なる場合もある反面、この例のように、ただ一度だけの方が適度であり適切であるという場合もある
わけである。
この続きは、次回に。