人を動かす経営 松下幸之助 ⑰
・ 「信用」を追求する—取り引き開始前の二万円
商売の取り引きの上では、信用というものが非常に大切である。
信用がなければ取り引きはできない。だから、相手から信用が得られるかどうかが、商売人として、
実業人としては、ゆるがせにできない重要度である。
だから、商売の上ではどこまでも信用を追求することが肝要になってくる。
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しかし、取り引きを開始する気にはなったけれども、私は一つの条件をつけた。
すなわち、開始する前に二万円までは必要に応じて貸付をするという約束をしてくれるかどうか、
してくれるなら取り引きする、という条件である。
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なぜ、私が貸付の承諾を先にしてほしいと希望したのか。
それは結局、信用の問題である。銀行が取り引きを勧誘したのは、それは松下電器が信用するに足る
会社だと考えたからであろう。
松下電器の将来を考え、発展していくことのできる会社だと考えたからであろう。そう考えて、取り
引きをすすめるのだから、その信用していることを実際の形にあらわしても良いハズである。
というよりも、実際の形にあらわせないのであれば、その信用は口先だけのものになってしまう。
信用の実態がなくなってしまう。
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けれども、単に取り引きを開始するのであれば、それは何の意義もない。
今でも十五銀行と取り引きをして、それで十分スムーズにやっているのだから、新たに他の銀行と
取り引きを開始する意義もない。
やはりここは、松下電器を大いに信用してもらっているのであれば、その信用していることを実際の
形にあらわしてもらわなければならない。それができるかどうかがカギである。
そこで私は行員の人に言った。
「銀行としてのお立場はよくわかります。しかし、この場合の私の希望は、信用の問題です。
取り引きをしようというからには信用していただいているハズです。その信用があるならば、開始の
前に貸付の約束をするのも、開始後に貸付をするのも、同じことでしょう。
その条件が受け入れられないということは、結局、本当に松下電器を信用することはできないという
ことではないでしょうか。だから、もう一度、徹底的に松下電器を調査してください。調査し直して、
それで得心がいけば貸付の約束をするということで結構です。
支店長ともよくご相談してみてください。私が支店長に一度お会いしてもいいですよ」
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そして改めて支店長に私の考えを説いた。
「取り引きというものは、大なり小なりその範囲における信用があってできるものです。
十分に調査すれば、一定の範囲がわかります。その範囲において、貸付の約束ができないハズはあり
ません。現に小さな松下電器でさえ、得意先が信用できれば、最初から五千円なり一万円なりの商品を
貸しています。大銀行の住友さんが貸付を約束できないハズがないでしょう。
約束ができないということは、真の信用を払わないということになります。そうであれば取り引きの
必要はありません。
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そこで話はやっと具体化し、進んだ。そして、調査も行われ、支店長も奔走して、二万円の無条件
貸付の約束のもとに、昭和二年二月、松下電器は住友銀行との取り引きを開始した。
この取り引き後、二カ月して銀行パニックが起こり、全国的に取り付け騒ぎが広がり、十五銀行は
支払い停止となった。松下電器は大きな窮地に陥ったのである。ところが、この住友銀行との約束が
約束どおり履行されたため、松下電器はこの困難を切り抜けることができた。
そしてその後は、住友銀行との取り引きを中心とする一行主義を長く続けたのである。
この続きは、次回に。