シェア < 共有 > からビジネスを生みだす新戦略 ⑧
□ ローカル市場の再興
✔︎ 翌年の四月、ケイリンは窓際の大きなオレンジ色の椅子に座っていた。
そして自分の理想するヴィジョンの大枠を描きはじめた—-世界中の人たちが結びつき
助け合う活発なコミュニティをつくり、大手流通をとおさずにユニークな手作り品を
直接に売買すること。
エッツィー( Etsy)の誕生だ。わずか三年で、エッツィーは20万人の売り手と100万人の
ユーザーが登録し、2700万ドル余りの資金を調達した。
エッツィーは、手作り品のクリエイター個々人と買い手を結びつける。
買い手は安い買い物ができ、売り手はいい値段で売れる。
オーストラリアからイギリス、そして南アフリカまで、150か国300万人を超える人々が
手作り品を売買している。
✔︎ エッツィーは、かつての消費の在り方のリバイバルだ。
個人が個人からモノを買う、昔ながらの市場をヴァーチャルに再現している。
編み物、版画、クロッシェ、陶芸、キルティング、木工といった伝統的な手工業のリバイバルの
一端をエッツィーは担っている—–そのパイオニアと言っていいだろう。
大量生産で失われた地産品や手作り品が持つ人々とのつながりや、ヴァラエティの豊かさを
求める人がますます増えている。
画一的にチェーン店とモール店文化は、ありえないほど非人間的な経験話生み出した。
そこに並べられた製品には歴史も、ストーリーもなく、それをつくった人の顔も見えない。
※ 省略致しますので、購読にてお願い致します。
✔︎ アメリカでは1994年に1700しかなかった地域農産物直売市場が、今では5750余りに増え、
食品市場の急成長分野になっている。
見方を変えると、アメリカにはウォールマートより1000か所も多い農産物直売所が存在する
ことになる—その三分の一は2000年以降にできたものだ。
流通によって国中を巡り巡って地元に戻ってくる商品ではなく、割安で新鮮な地産品を食べ、
自給自足的な生活を送ることへの関心が高まっている。
ここに、奥の深い、根本的な変化が起きている。
私たちは、生産者との失われた絆を取り戻そうとしているのだ。
✔︎ 社会学者による購買行動の研究によると、農産物直売所では、買い物客との会話が
スーパーより10倍も多いという。
直売市場をぶらぶらして自分たちが食べるものをつくった生産者と直接おしゃべりし、
おいしくて旬の食材を見つける方が楽しいのだ。
✔︎ エッツィーと地産地消のムーヴメントは、何をどう消費するかを考え直そうとする
大きな動きのひとつだ。
これらはまた、新しい消費マインドの基盤をなす三つのコアバリューの根本的な変化の
表れでもある。
そのひとつ目はシンプルであること。
消費者は、市場が地域に密着し、強い絆で結ばれていたかつての時代に戻りたいと心から
願っている。エッツィーで工芸品を買ったり、直売所で手作りチーズを選んだりする時、
そこには歴史やストーリーがある。それをつくった人がいる。
二つ目はトレーサビリティと透明性だ—–消費者は、「やっぱり地元がいちばん」と思い、
自分たちがだれから品物を買うのかや、購入品の用途だけでなく、それにまつわることを
もっと知りたがっている。
『雑食動物のジレンマ—ある4つの食事の自然史』[東洋経済新報社]でマイケル・ポーランが
言うように、「地産品の買い手は、食品のラベルを読むのではなく、実際に農地を見学し、
農家の人に会って目を見ながら作物や家畜の育て方を聞くことができる」のだ。
そして三つ目は自ら参加すること。
ますます多くの人が、自分の世界は自分でコントロールしたいと思い、積極的な参加者に
なろうとしている—–ハイパー消費の受け身の「犠牲者」になるまいと思っている。
今では、みんなの参加を可能にするような、かつてないほどの相互相続とインフラスト
ラクチャーがある。
私たちにとってICT(情報・通信・技術)のプラットフォーム、とりわけオンラインのソー
シャルネットワークと携帯デバイスがなくてはならないものになっていることが、私たちを
「みんな」モードへと動かすもうひとつの要因だ。
この続きは、次回に。