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私の日課-其の4

✔️ 人の耳目を一にする—経営兵法解釈

 

孫子は、大軍を動かす時には口で言っても聞こえないので、鉦や太鼓を用い、手で指し示しても

見えないので、旗や幟を用意するのだが、それは単なる手段の違いであって、大切なことは、

人の耳目を一にする、すなわち全員の意識を統一することであると説いた。

手段は何でもいいのだ。法螺貝でも、狼煙でも、ITでも、手段はその時、その場に合わせて選択すれば

いい。問題は組織全体の意識統一にある。

ここでは、情報伝達、情報共有と単純に考えずに、組織を動かす時には、全員が納得し、共感し、魅力を

感じる旗印が必要なのだ、と考えたい。

旗印とは、理念や目的、将来ビジョンである。

自分たちは何者で、何をしようとしていて、それが実現することでどういう価値が生まれるのかを共有

するということであると言ってもいい。

それに対して全員が魅力を感じ、共感共鳴していなければ、日々のマネジメントをいくら厳しくした

ところで、有効な行動は導き出せない。

この旗印もなく、仮にあっても共有されていない状態で、朝から晩まで「あれやれ、これやれ」「仕事

なんだから頑張れ」「給料もらっているんだろ」と社員の尻を叩いても、イヤイヤ義務感で形式的に

仕事をしているフリをするだけで、自発的かつ有効な行動は導き出せない。

特に今の若い人は、「金のため」「生活のため」と言われてもピンと来ないし、「仕事はきつくて当り前」

「面白かったら仕事じゃない」などと言われたら、「そうですか、じゃー辞めます」で終わりだ。

目の前の仕事には、単に生活のために金を稼ぐという以上の意味や価値がなければならないし、そこには

面白味や成長実感がなければならない。

これを明確にし、全社で共有するための道具(手段)が、「可視化マップ」だ。

全員が魅力を感じ、共感共鳴できるビジョンを地図にする。要するに目的地の「見える化」だ。

名前は地図だが、「錦の御旗」だと考えれば良い。

これによって目指している目的地が分かるから、どういう道順で行けばいいか、どれくらいのペースで

進めばいいのかが分かるし、それに対して社員から意見やアイデアも出せる。

目的地に行く意味が分かれば、そこにつながる目の前の仕事に意味があることにも気付く。

現代企業の金鼓・旌旗は、ビジョンの共有であり、その道程を照らすマップや情報共有システムで

あると考えればいいだろう。

どこに向かっているのかも示さず、頑張って努力した結果がどうなるのかも説明せずに、「もっと工夫

しろ」「経営者の視点に立ってみろ」「自分で考えろ」と要求するのは、無理難題を押し付けている

だけである。

希望が持てるビジョンを示そう。それが自分たちのアイデンティティの基礎となる。

 

そして、「気」「心」「力」「変」によって敵を制する。これもまた現代の企業経営に通じる。

社員の気力、モラル、モチベーションは、日々変化し、ちょっとしたことで上がったり下がったりする。

この「気」をどう扱うか、どう高めていくか、どう敵よりも良い状態にするかが戦いを左右する。

次に「心」、リーダーの心理状態。リーダーが泰然として、冷静かつ客観的に意思決定を行うことが、

ピンチの時ほど重要である。危機的状況に陥って、慌てて騒いでみたり、人のせいにして怒り狂ったり、

泣いたり落ち込んだりしていては、組織を維持し、統率することはできない。

窮地に陥った時にこそリーダーの真価が問われる。

もちろん敵、味方の「力」、戦力、戦闘力、力量の見極めも重要であり、無駄なことに労力を浪費せず、

備えを充分にして敵に当たる段取りが必要となる。

「変」とは変化、すなわち時の流れ、状況の変化を見極め、時機を待つ力とでも言えばいいだろうか。

一糸乱れず整然と旗印を掲げて迫ってくる敵に攻撃を仕掛けたり、堂々とした布陣で攻めてくる敵を

攻めたりしてはならない。

こうした、場合によっては撤退の意思決定ができる人間が、勝機を待って勝ちを得る指揮官にふさわしいと

孫子は言う。残念ながら、敵わない相手がいるものである。規模の大小の問題ではない。

理念や目的も素晴らしく、またそれを社員全員が共有し、一致団結しているような相手だ。

冷静に見て、自社とはレベルが違う、格が違うと認めざるを得ないような場合、無理して競合しよう、

戦おうなどと考えてはならない。

将来はともかく、今すぐにはその競合と戦ってはならない。戦っても勝てないのだから・・・。

一旦、退いて、自社に足りないものは何か、その相手が持っている優位性はどこか、謙虚に、真摯に

見つめ直し、改善、改良、強化、研究して出直しだ。素直に負けを認めてこそ、再度挑戦するチャンスが

やってくる。時機を待とう。

それを、KKD(気合・根性・ド根性or根性・根性・ド根性or経験・勘・度胸)でひたすら突き進み、

面子や体裁を気にして退くに退けなくなるようでは、経営者失格である。

人を率いる者としての責任を果たすことができない。

現場の社員(兵隊)であれば、強い敵が現れても、とにかく気合と根性で突っ込んでいく勇気が評価

されるだろう。現場の営業マンが「競合が手ごわいのでこの商談は諦めます」などと言ってきたら、

「そんな弱気なことでどうする!」と叱咤しなければなるまい。

製品開発の技術者が「相手の製品開発力にはとても敵いません」と本気で努力する前に言ってくる

ようでは話にならない。だが、リーダーたる者、現場から上がってくるネガティブ情報、マイナス情報を

冷静に受け止め、事実をつかんで、客観的に判断することができなければならない。

突撃して全滅すれば、そこで終わり。しかし、無理押しせず、一旦退却して全軍を保持できれば、

「弱気だ」「臆病だ」「卑怯だ」とその時は非難されたとしても、また戦うことができる。

勝つためには、戦わない勇気を持たなければならないのだ。

自社よりも有利な立場、状況にある敵に対して戦いを挑むようなことはしてはならない。

もし敵がその優位性を活かして勢いづいて攻めて来たら、迎え撃ってはならない。退却だ。

反対に、こちらが攻める時には、騙して逃げる姿勢を見せる敵を深追いしてはならないし、囲い込んでも

逃げ道を用意しておき、窮鼠猫を噛むようなことを避ける。

故郷に帰ろうとしているところを邪魔して、その怒りで反撃されるようなことになったら、余計な損害を

受けるばかりとなる。

と孫子の兵法を読んで行くと、孫武は心理学者でもあったのが分かる。

当時心理学はないから、心理学者であるわけはないが、心理学者であったと言ってもいいような心理的

洞察がある。これが2500年も前のことだから驚きだ。そしてそれにより、人間の心理は時代が変わっても、

戦争でもビジネスでも同じようなものであることも分かる。

時代が過ぎ、生活環境は進化しても、人間の本質はあまり進化していないようだ。

このあたりにも、孫子の兵法が時代を超えて21世紀の企業経営にも役立つ理由がある。

あぁ~、人間、この弱くして、愚かなる存在。調子に乗って勢いづいたかと思うと、すぐにダレて気力を

なくして、他人には嫉妬し、己のことは過大評価する・・・・・。

ちょっとしたことで腹を立て、怒りに任せて冷静さを失う。だが、追い込まれれば火事場の馬鹿力を

発揮し、不可能を可能に変える力も持つ。そしてこの人間の心理を解き明かすのも人間である。

その理性や知性、識見をプラスに活かしたいものである。


 やはり、孫子の兵法をビジネスの実践に応用し、企業経営に活かすべきである。

 

 

この続きは、次回に。

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