「D・カーネギー 人を動かす」②
2. 重要感を持たせる
□ 重要感とは、自分が重要な存在だと感じることだ。
相手に重要感を持たせると、相手の自尊心を高めることができる。
自尊心は誰にとってもきわめて大きな意味を持っている。2017/06/14
● 人を動かす秘訣は、この世に、ただ一つしかない。
すなわち、自ら動きたくなる気持ちを起こさせること—-これが、秘訣だ。
重ねて言うが、これ以外に秘訣はない。
● 人間は、何をほしがるか?——たとえほしいものはあまりないような人にも、
あくまでも手に入れないと承知できないほどほしいものが、いくつかある
はずだ。
普通の人間なら、まず、次に挙げるようなものをほしがるだろう。
一、健康と長寿
二、食物
三、睡眠
四、金銭および金銭によって買えるもの
五、来世の命
六、性欲の満足
七、子孫の繁栄
八、自己の重要感
● このような欲求は、たいていは満たすことができるものだが、一つだけ
例外がある。
八番目の〝自己の重要感〟がそれで、フロイトの言う〝偉くなりたいと
いう願望〟であり、デューイの〝重要人物足らんとする欲求〟である。
● 優れた心理学者ウィリアム・ジェイムスは、「人間の持つ性情のうちで
最も強いものは、他人に認められることを渇望する気持ちである」と
言う。
これこそ人間の心を絶えず揺さぶっている焼けつくような渇きである。
他人のこのような心の渇きを正しく満たしてやれる人はきわめてまれだが、
それができる人にしてはじめて他人の心を自己の手中に収めることが
できるのである。葬儀屋といえども、そういう人が死ねば心から悲しむ
だろう。
自己の重要感に対する欲求は、人間を動物から区別している主たる人間の
特性である。
□ 性情(せいじょう)
1. 人間の性質と心情。こころ。
2. 生まれつきの性質。「明るい性情の人」
● 「無教育で貧乏な一食料品店員を発奮させ、前に彼が50セントで買い
求めた数冊の法律書を、荷物の底から取り出して勉強させたのは、自己の
重要感に対する欲求だった。
この店員の名は、ご存じのリンカーンである」
● 週給五十ドルが、かなりの高給とされていた時代に、年俸百万ドル以上の
給料を取った数少ない実業家の一人に、チャールズ・シュワップがいる。
シュワップは、1921年にUSスチール社が設立された時、アンドリュー・
カーネギーが社長に迎えた人物である。
アンドリュー・カーネギーが、このシュワップという男に、どういう
わけで、一百万ドル、すなわち一日に三千ドル以上もの給料を支払ったか?
シュワップが天才だからだろうか? 違う。
シュワップがこれだけの給料をもらう主な理由は、彼が人を扱う名人
だからだと自分で行っている。どう扱うのかと尋ねてみると、次のような
秘訣を教えてくれた。
● 「私には、人の熱意を呼び起こす能力がある。これが、私にとっては
何物にも代えがたい宝だと思う。他人の長所を伸ばすには、ほめることと、
励ますことが何よりの方法だ。上役から叱られることほど、向上心を
害するものはない。私は決して人を非難しない。
人を働かせるには激励が必要だと信じている。だから、人をほめることは
大好きだが、けなすことは大嫌いだ。気に入ったことがあれば、心から
賛成し、惜しみなく賛辞を与える。」
これが、シュワップのやり方である。ところが、一般の人はどうか?
まるで反対だ。
気に入らなければめちゃくちゃにやっつけるが、気に入れば何も言わない。
「私は、これまでに、世界各国の大勢の立派な人々とつきあってきたが、
どんなに地位の高い人でも、小言を言われて働く時よりも、ほめられて
働く時のほうが、仕事に熱がこもり、出来具合もよくなる。
その例外には、まだ一度も出会ったことがない」と、シュワップは
断言する。
実は、これが、アンドリュー・カーネギーの大成功の鍵なのだと、
シュワップは言っている。カーネギー自身も、他人を、公私いずれの
場合にも、ほめたたえたのである。
カーネギーは、他人のことを、自分の墓石にまで刻んで賞賛しようと
した。彼が自ら書いた墓碑銘は、こうである。
「おのれよりも賢明なる人物を身辺に集むる法を心得し者ここに眠る」
● 「何年も前、デトロイトのある学校の女先生が、授業中に逃げた実験用の
ネズミを、スティーヴィー・モリスという少年に頼んで、探し出して
もらった。この先生がスティーヴィーにそれを頼んだのは、彼が、目は
不自由だが、その代わりに、素晴らしく鋭敏な耳を天から与えられて
いることを知っていたからである。
素晴らしい耳の持ち主だと認められたのは、スティーヴィーとしては、
生まれてはじめてのことだった。
スティーヴィーの言葉によれば、実はその時—自分の持つ能力を先生が
認めてくれたその時に、新しい人生がはじまった。
それ以来、彼は、天から与えられた素晴らしい聴力を生かして、ついには
「スティーヴィー・ワンダー」の名で、1970年代有数の偉大な歌手と
なったのである。
● 「お世辞と感嘆の言葉とは、どう違うか? 答えは、簡単である。
後者は真実であり、前者は真実でない。後者は心から出るが、前者は
口から出る。後者は没殺的で、前者は利己的である。
後者は誰からも喜ばれ、前者は誰からも嫌われる。」
● お世辞の定義について、次のように述べた本を読んだこともある。
「相手の自己評価にぴったり合うことを言ってやること」
これは、心得ておいてよい言葉だ。
● アメリカの思想家エマーソンは、「人間は、どんな言葉を用いても、
本心を偽ることはできない」と戒めている。
● 人間は、何か問題があってそれに心を奪われている時以外は、たいてい、
自分のことばかり考えて暮らしている。そこで、しばらく自分のことを
考えるのをやめ、他人の長所を考えてみることにしてはどうだろう。
他人の長所がわかれば、見えすいた安っぽいお世辞などは使わなくても
済むようになるはずだ。
● 人の気持ちを傷つけることで人間を変えることは絶対にできず、全く
無益である。これについて古い名言があり、私はそれを切り抜いて、
毎日みる鏡に貼ってある。
「この道は一度しか通らない道。だから、役に立つこと、人のために
なることは今すぐやろう—–先へ延ばしたり忘れたりしないように。
この道は二度と通らない道だから」
● エマーソンは、また、こうも言っている。
「どんな人間でも、何かの点で、私よりも優れている—–私の学ぶべき
ものを持っているという点で」
エマーソンにしてこの言葉あり、ましてや我々凡俗はなおさらである。
自分の長所、欲求を忘れて、他人の長所を考えようではないか。
そうすれば、お世辞などはまったく無用になる。
嘘でない心からの賞賛を与えよう。
シュワップのように、〝心から賛成し、惜しみなく賛辞を与え〟よう。
相手は、それを、心の奥深くしまい込んで、終生忘れないだろう—–
与えた本人が忘れても、受けた相手は、いつまでも忘れないで慈しむ
だろう。
【人を動かす原則②】
素直で、誠実な評価を与える。
この続きは、次回に。