リテールマーケティング ⑭
7. ネットスーパーの成長とそのメリット
① 既存型ネットスーパーの特徴と次世代型ネットスーパーの参入
ネットスーパーは、インターネットなどで顧客からの注文を受け付け、
日用品や生鮮食料品を自宅まで配達するサービスである。
忙しい主婦や帰宅時間が遅い人ばかりでなく、自宅の近くに商店などが
少ない人や、重いものを自分で運ぶのが困難な高齢者から支持を受け、
リアルショップ(実店舗)での販売実績が伸び悩む現状にあって、年々その
利用者数が増加している。
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(1) 既存型ネットスーパーの特徴
ここでいう既存型ネットスーパーとは、実店舗に商品のピッキングをする
専門部署を設置して配送する「店舗型」と、専用の物流センターから配送
する「センター(倉庫)型」の大きく2つに分けられる。
前者は、イオン、西友、イトーヨーカ堂などの大手小売業から、地方の
中小〜中堅規模のスーパーマーケットまで広く採用されている型で、現在の
ネットスーパーの主流となっている。
後者は、東京都を中心に埼玉・千葉・神奈川に展開するスーパーマーケットの
サミットが採用していたが、業績不振を理由に2014年に当該事業から撤退して
おり、現在ではあまり採用しているところはない。
上述したように、ネットスーパーはその利便性から利用者が増加している
ものの、① 専門部署に配置するスタッフの人件費、② 配送用車両の購入・
維持コスト、③ 配送時に発生するガソリン代、などのコスト的な影響に
より、該当部門だけをピックアップすると赤字傾向にあり、企業にとって
課題となっている。
(2) 次世代型ネットスーパーの参入による競争激化
日本国内の食品市場は20兆円あるといわれているが、現状、食品のEC
市場は1%にも満たない。それに対し、欧米諸国では5〜10%に達している
ことから、日本国内でもまだ潜在的な成長力があると考えられている。
そのマーケットをねらって、すでにネット通販から配送までのインフラ
整備が完了しているアマゾンや楽天など大手EC事業者が、配送方法に
それぞれ工夫を持たせながら参入してきている。
これらは既存型と区別され、次世代型ネットスーパーと呼ばれている。
② ネットスーパーを利用するメリットとデメリット
(1) 利用者のメリット
ネットスーパーを利用する顧客にとってのメリットとして、次のような
ことがあげられる。
一、24時間いつでも時間を気にせず注文できる
ネットスーパーなら、早朝や深夜など、店舗が空いていないような時間帯
でも注文が可能である。
二、重い商品やかさばる商品を配達してもらえる
米やペットボトルといった重いものや、ティッシュペーパーなどのかさ
ばるものも自宅の玄関先まで配達してもらえる。
三、最短で即日届けてくれる
ネット通販で買物をすると、通常、自宅に届くまでに数日かかるが、
ネットスーパーの場合は最短で注文したその日に届けてくれる。
(注文した時間や天候、交通事情によって当日に届かない場合もある。)
四、配達の日や時間帯を自分の都合で選べる
配達の時間帯を指定して、都合のよい時間帯に受け取ることができる。
五、予算に合わせた計画的な買物ができる
店舗で買物をする場合、つい買う予定のなかったものまで買ってしまい、
予算オーバーになることがある。ネットスーパーの場合は、決済する前に
選んだ商品の合計金額がわかるため、予算に合わせた計画的な買物ができる。
六、交通費やガソリン代がかからない
店舗まで出向く必要がないため、ガソリン代や電車・バス代など交通費が
かからない。
そのほかにも、体調が悪いときなど外出しなくても購入できる、店内で
商品を探す手間やレジに並ぶ時間が節約できる、などのメリットがある。
(2) 利用者のデメリット
デメリットとしては、次のようなものがある。
一、実物を見て買うことができない
ネットスーパーでは実際の商品を見て買うことができないため、たとえば、
食材の傷み具合や大きさなどを確認できない。特に生鮮食品などを自分の
目で確認してから購入したいという顧客にとっては大きなデメリットとなる。
二、配送料がかかることがある
どのネットスーパーを利用するかによって異なるが、1回の注文につき
300円〜500円(+消費税)程度の配送料がかかる。ただし、一定の金額
以上購入すると送料無料なる場合が多い。
三、配送可能エリアに入っていない場合がある
居住地域によっては配送可能なエリア外となり、ネットスーパーを利用
できないことがある。なお、あるネットスーパーではエリア外だった場合
でも、別のネットスーパーで配送地域に含まれている可能性がある。
四、外出するきっかけが失われる
これは、特に高齢者の場合、積極的に外に出て外部の刺激を受けることで
心身機能が維持される。しかし、ネットスーパーに依存しすぎてしまうと、
外出するきっかけが失われ、心身機能が低下するリスクがある
③ ネットスーパーの今後のトレンド
今後のネットスーパーのトレンドはどうなっていくのであろうか。
今日、特に注目を集めている技術やビジネスモデルとしては、VR、動画、
IoT、サブスクリプションなどがある。
一、 VR×ネットスーパー
ネットスーパーにおける今後のトレンドの1つ目は、VRとの連携である。
前項のデメリットでもみたように、利用者から「もしかしたら少し傷んだ
ものが届くのでは?」「同じ商品でもあまり品質の良くないものが選ば
れるのでは?」と思われるという問題がある。
それを解決するのが「VR×ネットスーパー」である。
これは中国・上海において実験されている技術であるが、顧客はVRゴー
グルをかけることで実際の店内をオンラインでリアルタイムに見て回る
ことができる。そして自分で選んだものが運ばれてくるので、上述のような
問題の対策となる。
「VR(Virtual Reality)」
「人口現実感」や「仮想現実」と訳される。
コンピュータが生成した仮想空間を、まるで現実であるかのように
体験できる技術。
二、 動画×ネットスーパー
今後のトレンドの2つ目は、動画との連携である。たとえば、料理動画を
視聴するなかで、気に入ったレシピの具材を実際に購入することができ
るといったサービスが提供され始めている。
料理の献立に悩んだとき、献立をインターネットで検索し、その作り方を
料理動画で調べ、その動画に出てきたレシピに必要なものがオンラインで
その場で購入できるというもので、顧客にとってスムーズな購買体験が
できる。
(3) IoT×サブスクリプション
今後のトレンドの3つ目は、IoTやサブスクリプションとの連携である。
たとえば、特定のスーパーマーケットで購入した生鮮食品などをIoT機能が
付いた冷蔵庫に保管しておき、食品の賞味期限などが切れる前に冷蔵庫から
アラームが表示されたり、冷蔵庫内から食品がなくなると自動で当該食品の
追加注文ができるサービスを月額で提供することも、今後可能になって
いくであろう。
<参考文献>
経済産業省「2018年 商業動態統計調査年報」
消費者庁「令和元年版 消費者白書」
総務省「令和元年版 情報通信白書」
経済産業省「平成30年度 我が国におけるデータ駆動型社会に係る
基盤整備(電子商取引に関する市場調査)」
この続きは、次回に。