リテールマーケティング ㉒
2. 顧客の購買行動を明らかにするID-POS
(1) ID-POSとは
オムニチャネル化が進展している現在、小売業は日々の販売額だけを確認
すれば良い時代ではなくなった。メーカーと協力し、自社(自店)にとっての
有料顧客を見極めて、その顧客生涯価値(LTV)をいかに高めるかが重要に
なっているのである。
その大きな武器になるものとして、昨今、注目を集めているのがID-
POSデータである。ID-POSデータから得られる情報は、従来のPOS
データと異なる点がある。
前述のように、POSデータからは、「何が、いつ、いくつ、いくらで
売れた」ということがわかる。しかし、従来のPOSデータには「誰が」と
いう視点が欠けていた。
ID-POSデータは、POSデータに購買者の属性情報を加えたもので、これに
より「誰に(売れたのか)=誰が(買ったのか)」という人の動きをみることが
できる。これがID-POSデータの最大の特徴である。
したがって、POSが商品動向をみるものであるのに対して、ID-POSは
「人」の動き(ショッパー動向)をみることが中心となる。
図6-1 POSデータでわかること
—一部省略—
商品動向—「何が売れたか」
■どの店で
■何が
■いつ
■いくつ
■いくらで
——売れたのか
出所:「販促会議」2013年8月号を一部加工修正
● 顧客生涯価値(Lifetime Value)
1人の顧客が取引期間全体を通じて企業にもたらす価値のこと。
図6-2 ID-POSデータからわかること
—一部省略—
ショッパー動向—「誰が何を購入したか」
■どんな人が
■何を
■何と一緒に
■いつ
■いくつ
■いくらで
■何の購入の前に
■何の購入の後に
—-買ったのか
出所:図6-1と同じ
このように、ID-POSは顧客のIDを認識して、「誰が」どのような購買
行動をしたかを把握する。従来の商品の動きを重視した視点を、顧客視点の
マーケティングに転換する重要なビジネス・インフラといえる。
ID-POSを活用する場合、たとえば、メーカーは自社商品を軸に購入者が
「新規顧客」なのか「既存顧客」なのかという視点、小売業は来店における
優良顧客は誰かといった視点で捉えることができる。
(2) ID-POS分析からわかるもの
IDの付かないPOSデータの分析は、基本的に「何が売れたのか」という
観点での分析にとどまる。買い手である「顧客」を特定できないために、
そこはブラックボックスとして「売れ方」を分析するしかないのである。
一方、このPOSデータに「ID」が付いて「買い手」という強力な項目
(軸)が増えることで、従来の販売実積データ分析が購買行動データ分析に
様変わりする。
「買い手」の軸が加わることによって、新たに「属性」「回数」「時間
軸」などがわかる。
たとえば、属性では性別、年齢層といった基礎的なことのほか、購買履歴と
組み合わせることで、その顧客がヘビーユーザーか、ライトユーザーかが
わかる。そこで、ライトユーザーに対しては、購買アップのための施策
などを具体的に立案するといったことができる。
また、その顧客が30代の男性であれば、「30代の人は何を買うのか」
「男性は何を買うのか」「30代の男性は何を買うのか」という形に分けて
いき、さらに、その人の購買行動を分析して「集団の定義=セグメントの
切り口」にすることもできる。
一般的な例としては、「高額商品を買う人」「来店頻度が高い人」など
だろうが、「水曜日にたくさん購入する顧客層」という集団を他の集団と
比較して、その特性を分析することなども考えられる。
(3) ID-POS分析における注意点
このように、分析の選択肢は大きく増える。しかし、暗雲に分析作業を
進めるのは得策ではない。
分析の基本はPOSデータから商品動向を知ることであり、そのうえで
ID(=購買者)の単位で分析するという手順が望ましい。
しかし、ID-POS分析からわかることは、「いつ、誰が、何を買ったの
か」であり、「なぜそれを買ったのか」「なぜ違う商品を買わなかった
のか」「なぜ自店に来店したのか」といった、“なぜ”の理由はわからな
いということに注意しなければならない。
たとえば、ある商品が突然売れたのは、前日のテレビでその商品を取り
上げた番組が放送されたためかもしれない。別の商品がその日売れなか
ったのは、天候のせいかもしれないし、近隣の競争店が安売りしていた
からかもしれない。これらは店舗にとって重要な情報であるが、ID-
POSデータではわからない。
データで現れた部分と現れなかった部分を総合的に分析し、「それはな
ぜか、これからどうするべきか」を考えることが重要である。
この続きは、次回に。