リテールマーケティング ㊹
3. 推奨販売の提案方法
次に、自店の推奨商品を顧客に提案するための対話手法について述べる。
① 推奨商品を提示する際、十分な対話によって推奨する理由を
明確にする。
販売員が推奨する理由のなかに顧客が商品の価値を見いだせる場合や、
顧客の欲求を満たす商品であることが明確であれば、対話販売は可能で
ある。
そのため、顧客の悩みや不満などを家族の一員として聞く姿勢が必要と
なる。販売員は相談によるアドバイスだけを行い、何も買ってもらわずに
帰ってもらう気持ちを養うことで、顧客の来店率は高まるであろう。
推奨という名を借りて、特定の売りたい商品を押しつけるような販売は、
決して行ってはならない。
② 低価格帯の商品のほうを推奨する
顧客が求める商品(目的商品)が欠品していく、やむを得ず代替商品を推奨
するときは、目的商品よりも低価格で、かつ、同等の品質の商品を提示
するべきである。
「売る側の都合でお薦めしているのではありません」という、押しつけ
がましい印象を払拭することが必要である。「欲しい商品がなかったのは
残念だけど、同様の効果(価値)が得られる商品を、しかも安く購入でき
た」と満足してもらえることに専念しなければならない。
しかし、販売員が本当に顧客のことを大切に思うのであれば、競争店に
行って欠品した商品を販売員自らが購入し、顧客の自宅まで届けるサー
ビスが要求されるであろう。
ここまで顧客の身になって尽くすことができれば、日ごろの対話販売が
生きてくるのである。
③ 顧客に商品を選ぶ自由と楽しみを残しておく
顧客のニーズに合致する商品を用途や機能別に2〜3品目提案し、その違いを
明確に提示したうえで、顧客自身に選んでもらうことが対話販売における
推奨という名のサポートである。そして、対話するなかで顧客に納得の
いく買物プロセスを味わってもらう販売員の努力をホスピタリティ(おもて
なし)という。
対話販売とは、もてなし行為によって顧客の悩みや不満、そして欲求などの
相談にのり、推奨商品をもって生活シーンの提案を行うことである。
決して売る側の販売員が商品を決定することではない。
「相手に満足してもらうために何をすべきか」と常に顧客を尊重し、もて
なす過程のなかからいくつかの推奨商品を理解してもらうことが、顧客
重視型経営に求められる対話販売である。
対話販売は対面販売とよく似た言葉である。しかし、対話販売は、ただ
単に顧客に向かって商品知識などを通り一遍に説明する対面販売とは大きな
違いがある。
対話販売は、顧客と向かい合うだけでなく、プロフェッショナルの意識を
持って積極果敢に顧客に密着し、生活上のさまざまな悩みや欲求などを
十分に聞き、意見を交わしたうえで適切な商品の推奨とその用途(生活
シーン)を提案する販売形式である。
表1-1 対面販売と対話販売の比較
【対面販売】
セルフサービス販売方式に対応した商品の受け渡し中心の販売形態
【セールスポイントの活用】
売る側の都合を優先させた販売促進策
【マス・セールス手法】
誰にでも同じ範囲で同じ説明を行うマニュアル機能
【情報伝達】
商品の品質や成分、そして使い方などを忠実に伝える役割
【対話販売】
対面にとどまらず、人的販売の中でも最も高度な専門知識と相談技法を
駆使した販売形式
【セールスポイントの活用】
買う側の立場を理解した販売促進策
【マス・セールス手法】
顧客のニーズやウォンツに対応した相談および提案機能
【ホスピタリティ】
気分の良い買物と満足度の提供による固定客化の促進商品
出所:「マイクロマーケティング入門」PHP研究所
この続きは、次回に。