リテールマーケティング ㊻
2. サービスの質を低下させてはならない
ところが、高度経済成長期以来、大量生産され続けている商品は、マスコミの
発達とともに有り余る情報として消費者に流され続け、十分すぎるくらいに
認知されている。
消費者は、大手メーカー各社から発売される同一カテゴリーの商品のなかから
購入するものを否応なく選ばなければならなくなったのである。
そこで消費者が求めたのは、売場で商品選択をサポートしてくれる小売店の
スタッフ(専門担当者)であった。
ある大手スーパーストアが、バブル経済崩壊後、悪化した収益性の改善を
はかるため売場の人員を削減したことがあった。その結果は、失敗に終わった。
販売スタッフを減らしたため、顧客に対するサービスの量と質が低下し、
客足が遠のいてしまったのである。
今日の消費者は、押しつけがましい対面販売に対しては明確に拒絶反応を示す。
そのため、100%対面販売であった百貨店においても、すでに大手を中心に
食品売場などでセルフサービス販売方式を取り入れる動きがみられる。
とはいえ、大手スーパーストアにみられる圧倒的なボリューム陳列の前で、
商品選択に戸惑うような完全セルフサービス販売方式ではなく、顧客の
求めがあればいつでも対面販売に切り替えられる体制をとる必要がある。
3. ハーフセルフサービス販売方式のポイントとメリット
押しつけがましくなく、かといって、ある一定のレベルの応対はできる、
いわばハーフセルフサービス販売方式が、今後の消費財の販売形態として
大きなウエイトを占めるようになる。
その展開方法は次のようになる。
① 顧客が来店しても「いらっしゃいませ」という程度の声をかけるだけで、
あとは顧客が購入の態度や意向を示すまでいっさい声をかけない。
② 商品は自由に選んでもらう。顧客が声をかけてきたり、探している商品が
見つからない、どれを購入してよいのか迷っているなど、顧客の側から
シグナルが発せられていることが判明するまでアプローチしない。
③ いったん顧客からのアプローチがあったら、顧客の要求を満たすことが
できるように、プロの販売員としての対応に努める。
その場合でも、決して販売する側が主導権を握っていることを感じ
させない気配りを忘れない。
すなわち、顧客から質問されたことだけを懇切丁寧に説明することが
ポイントである。そして、ハーフセルフサービス販売のメリットとしては、
次のようなことが指摘できる。
① 自由に商品を選ぶことができるスーパーマーケットの気軽さと、質の高い
百貨店のような接客サービスが同時に実現できる。
② 質の高いサービスを維持しながら、販売員の数を抑えられる。
③ 付加価値サービスの提供により、来店客数を確保するための手段として
続けてきた適正利潤を度外視した無意味な価格競争に追随する必要が
なくなる。
販売員に求められるものは商品知識ばかりではない。
完全セルフサービス販売方式をとるスーパーマーケットでは、顧客からの
掘り下げた問いかけはないという前提に立っているため、販売員の緊張感が
薄れがちになる。それがひいては店内のメンテナンスなどにも悪影響を
与えるのではないだろうか。
「いつ役に立つかわからないが、常に顧客からのアプローチがあったときに
備えておく」という適度な緊張感が快適な商空間を作るのである。
表2-1 セルフサービス販売とハーフセルフ販売の比較
[販売内容(ねらい)]
セルフサービス販売
↓
疎外的販売方法—スーパーマーケットやコンビニエンスストアなどの
ように、顧客が商品をレジに持っていくまで販売員は声をかけない。
(→顧客との接点が欠如)
ハーフセルフサービス販売
↓
コミュニケーション重視的販売方法—基本的には顧客に声をかけない。
しかし、顧客の求めに応じていつでも対応できる十分な体制を整えて
いる。(→常に顧客を意識)
[メンテナンスの度合い]
セルフサービス販売
↓
不十分なメンテナンス—まったくの無干渉は、時として不親切な対応と
思われてしまう。(→買物に物足りなさを感じる)
ハーフセルフサービス販売
↓
十分にメンテナンス—決して押しつけがましくなく、顧客が聞けば販売員は
そのことに対し的確に答えてくれる。(→気兼ねしないで買物が楽しめる)
[購買の安定性]
セルフサービス販売
↓
不安因子が多い購買→顧客が1人で商品を選ぶため、適切ではないものを
買ってしまうことがある。また、どこに何があるかわかりにくい場合も
あり、買物に時間がかかることがある。(→不安的購買の日常化)
ハーフセルフサービス販売
↓
適正な購買—何かわからないことがあれば、専門知識を持った販売員が
すぐに近寄って的確なアドバイスをしてくれる。そのため、自己の求める
商品を確実に購入できる。(→安心購買の促進)
出所:『「顧客満足」を高める35のヒント』PHP研究所
この続きは、次回に。