リテールマーケティング ㊾
⑤ セールとプロモーション
1. 安売りだけでは消費者は固定化しない
定期購読の新聞には、毎日のように大量のチラシ広告を織り込まれている。
不動産情報などと並んで多いのが、その地域のスーパーマーケットやド
ラッグストア、ホームセンターなどのチラシ広告である。
それらの内容を見ると、ほとんどが「本日限り」や「○日限定」など、
期間限定の特売セールの告知となっており、それぞれ商圏内の競争店よりも
いかに価格が安いかを競い合うものばかりといってよい。
こうした情報の受け手である消費者の反応は、次の2つである。
① 送り手(小売店)のねらい通り、チラシ広告にひと通り目を通し、一番
安いと判断した小売店や商品を選ぶ。
② 店舗の選択には、価格よりも品ぞろえやサービスなどを優先するため、
チラシ広告は当てにしない。ただし、一人の消費者が永続的に①か②の
どちらであり続けるという保証はない。可処分所得の変化、景気の変動、
インターネット販売(ネット通販)の進展などにより、判断基準を変える
可能性は十分にある。したがって、小売業が「大多数の消費者の店舗選択
基準や商品選択基準は価格(の安さ)である」といった一方的な思い込みで
価格訴求だけの運営を行うことは、かなりのリスクを抱えていると言わ
ざるを得ない。
価格訴求だけのセール(特売)は、日本経済が戦後からまだ完全に復興しない
時代に進出してきたスーパーマーケットを中心に展開されてきた。
当時の消費者は、1円でも安いものをと考えた購買行動をとっており、
必然的に安売りを強調したセールは歓迎された。しかし、その後の高度
経済成長によって消費者は、豊かになり、購買行動においてもただ安ければ
よいという消費者ばかりではなくなってきた。その商品がある一定の品質を
持ち、快適さや満足感といった付加価値が得られ、しかも価格が適性な
範囲内であれば、それ以上の安さは求めない顧客が増えてきたのである。
それにもかかわらず、かつてと同じ発想で価格訴求だけに頼った販売を
行っている小売業は、顧客の購買行動の変化に対応できていないことに
なる。
2. 少しでも付加価値の高いサービスを
そこで重要となるのは、販売政策における戦略コンセプトをセールから
プロモーションに切り替えていくことである。セールもプロモーションも、
日本語にすれば同じ販売促進の一環として位置づけられるが、その実態には
かなりの違いがみられる。
最大の相違点は、セールの効果が特売期間だけの一過性に終わってしまい
がちになるのに対して、プロモーションの場合は、その時だけでなく次回の
来店と購買にもつながる機能を持っていることである。
次に、それぞれの展開を具体的にみていく。
① セールの場合
対象商品の安売りや、ベタ付けと呼ばれるサンプル品などの添付が主体で
ある。安売りの場合はその場限りになる可能性が高く、ベタ付きにしても
その景品が欲しいものではないから、顧客は満足感を得ないため効果を
発揮しない。
② プロモーションの場合
顧客に少しでも付加価値の高いサービスを提供しようという発想から
スタートしているため、リピートに結びつく可能性が極めて高くなる。
プロモーションの展開パターンは、次の2つに大別される。
(a) 顧客が実際に目に見える形でベネフィット(便益)を享受できるもの
<例>
航空会社で実施しているマイレージカードのような楽しみを提供できる
システムなどが有効である。1回の購入金額に応じて自己のポイントを
登録し、そのポイントによってさまざまな価値ある(一般の小売店では
購入できないような)景品をプレゼントすることが必要である。
顧客の心理からすると、直接的にはセールの割得感に近いという認識も
あるだろうが、ポイントに応じた価値ある景品を獲得する目的意識を持つ
ことができる。小売店側からみれば、一過性に終わらず、継続した顧客の
来店が見込まれる。
この続きは、次回。