書籍「すごい物流戦略」ZARA③
● 環境や労働問題への高い意識と取り組み
海外に数多くの生産委託先を持つインディテックスではSC監査(Supply
Audit)を実施し、常時、原材料をどこから仕入れているのか、問題と
される労働環境はないかといったことを確認し、その結果を明らかに
しています。
海外の生産工場は1805拠点あり、同業のH&Mの800、ユニクロ(ファー
ストリテイリング)の184と比べ圧倒的な数になっています。
地域別では、ヨーロッパが53.7%、アジアその他が44.4%、アメリカが
1.9%という割合です。
ヨーロッパには、環境やエコロジーに関心を持つ企業が数多くあります。
そうした発想がないと、社会に受け入れられにくいからです。
アパレル製品を世界中に大量に生産・流通させているインディテックスの
場合も、原材料である綿は通常、大量の水を使用して生産されるため、
「Circular Fashion System(循環型ファッションシステム)」をめざすべき
方向として掲げています。
「Circular Fashion System」を実現していくためには、「Organic Cotton」、
「Recycled Cotton」(再生綿)、「Refibra Lyocell」(再生セルロース繊維の
1つ。ユーカリ<木材>を特殊な溶剤で溶かして作られる<溶剤紡糸法>再生
繊維。溶剤を回収して再利用するため、廃液が環境中に放出されず、地球にも
優しいエコロジカルな繊維)、「Recycled polyester」、「upcycling」
(廃物や使わなくなったものを、新しい素材や製品として価値を高めて
いくこと)の社内的な理解、活用が必要です。
そのための具体的なアクションとして、同社では2020年までに実現すべき
4つの重点ポイントを挙げています。
1つ目が、素材や生地に一切のムダを出さないようなデザインづくりを
可能にすること。すでに生地の裁断については、ムダが出ないよう、
コンピュータ上で、効率的なパーツの裁断を試算しながら行っています。
2つ目が、約2000店の店舗を通じて使用済み衣類の回収を増やすこと。
3つ目が中古衣類の再販売を増加させること。
そして最後の4つ目が再生繊維の使用を増やしていくこと、です。
● プロパー販売率(発売時の価格で売り切る割合)は9割と極めて高い
インディテックスでは、月2回の会議に基づき、年間5万店の商品開発を
進めています。その中枢を担うのがデザイン部門です。
インディテックスのデザイン部門は、デザイナーチーム、プロダクト
マネージャー、バイヤーチームで構成され、約700人が在籍し、うち
ZARAの担当が350人います。
インディテックスの商品は、ZARAをはじめどのブランドも、基本的に
広告などの販促コストをかけずに販売しています。
「なぜ広告コストをかけないのか?」という問いに対し、以前オルテガ氏は
次のように答えたそうです。
「広告によって利益を受けるのは、企業であって顧客ではない。だから
こそ私たちは広告に投資する分を商品の質を上げて価格を下げることに
使うと決めたんだ。君が顧客ならどちらを望む? 広告への投資家?
それともより質の高い製品や、より手の届きやすい価格か? 」
通常のアパレル製品の場合、プロパー販売率(発売時の店頭価格で売り
切る割合は60%あればかなり効率的と言われていますが、インディテッ
クスではプロパー販売率は90%にもなるそうです。
ムダの少ない販売で定評のあるユニクロでも75%程度ですから、同社の
プロパー販売率の高さが尋常でないことがよくわかります。
このことからインディテックスの商品がいかに消費者に望まれているの
かが、明らかだと思います。
また販促コストをかけないことについては、次のような見方もあります。
「週2回、新商品を投入するZARAでは、販促プロモーションの準備サイ
クルよりも商品投入サイクルが早いため、大規模な単品訴求の販促プロ
モーションを行なっていない」
新商品の投入サイクルが早いのは、消費者の需要予測の制度を上げる=
消費者ニーズにマッチさせるためでもあるわけですから、インディテッ
クスが販促コストをかけていないのは、“顧客のため”と考えることが
できます。
この続きは、次回に。