書籍「すごい物流戦略」オムニチャネルと物流戦略③
● ヨドバシカメラでの買い物はこう変わった
このオムニチャネル対応で、日本国内で先行している企業としてまず
名前があがるのが、ヨドバシカメラです。
海外では、リアル店舗を活用したオムニチャネル対応が進んでいます。
ある店舗では、専用アプリを利用しているお客さんに対し、次のような
対応ができているそうです。
お客さんが店内に入ると、専用アプリが立ち上がり、そのお客さんが
日ごろよく購入する商品に関するお得情報(例えば、ディスカウントクー
ポンの発行など)がプッシュ通知によって提供されます。
このサービスを開始したころはお客さんから気味悪がられることもあった
そうですが、最近ではその反応が逆転しています。
2014年に実施されたアメリカのある調査では、自分がその店にいるときに、
「もしキャンペーンやプレゼントといった特典を得られる情報があって
それが知らされない場合」に不満を感じる人が6割にのぼったそうです。
そこで感じる気味悪さよりもそこで得られるメリットのほうが上回れば、
積極的に利用したいと考えるのが、消費者の基本的な心理ということで
しょう。
● 実現するためにクリアしなければいけない3つのポイント
オムニチャネルでの対応を実現するためには、クリアしなければならない
ポイントが3つあります。
まず、「在庫の一元管理」です。これはネットショップ、リアル店舗店頭、
物流センター、移送中のトラックにある商品在庫をリアルタイムで管理する
ことです。在庫の一元管理が実現すれば、ネットで注文した商品を店舗で
受け取ったり、ネットで購入したものを店舗で返品することができたり、
A店の在庫をB店に送ってもらって購入したりすることも可能になります。
次に「価格の統一」です。ネットで値段を調べて来店したのに、いざ
店頭にある商品を購入しようとしたら値段が違っていたということでは、
顧客からの信頼は得られません。
どこで注文し、どこで商品を受け取ったとしても、販売チャネル、受け
取り場所などに関係なく値段は統一されていることが重要になります。
そして「店員の教育」も大切なポイントになります。ネットでもリアル
店舗でも、顧客に対して同じ対応をすることが求められます。
ネットショップで決済したお客様も、いま目の前で精算しているお客様も、
自社の大切な顧客であるという意識を共有することが必要です。
● アメリカのショッピングセンター激減が意味すること
アメリカでの買い物シーンといえば、週末、だだっ広い駐車場に車を止め、
家族連れで買い物カートを引っ張りながら、巨大なショッピングセンター
(SC)内を巡り歩くというのが、まだまだ多くの人のイメージするところ
ではないでしょうか。
ところが、そのアメリカでは、現在SCを語る際に「1800分の300」が
クローズアップされています。
「以前1800程度あったショッピングセンターのうち、およそ300が閉鎖に
追い込まれた」というショッキングな事実を示したものです。
さらに、それだけにとどまらず、「現存するSCの3割は消滅する」という
見方がされることもあります。
その原因を作っているのが、アマゾンに代表されるECです。
リアル店舗同士の競合なら、お客さんの動きが目に見えますから、
「向こうの店にお客さんが流れている」「こちらの客足が鈍くなった」と
いったことを、実感を持って知ることができました。
ところが対ECとなると、目には見えないところ(インターネットの世界)で
お客さんを奪われているのですから、実感を持つまでに時間がかかります。
ECが多くのリアル店舗から同じようにお客さんを奪っているのであれば、
近隣の競合店の動向を見ているだけでは何もわかりません。
景気全体からくる影響なのか、本当の顧客離れなのか、その判断はなか
なかつかないでしょう。しかしその間にもECへの顧客流出は止まりません。
本格的に気づいたときには、もはや手遅れということにもなりかねません。
というのも、EC市場は十数年前まではほとんどなかったわけですから、
現在のEC市場の規模だけ、従来のリアル店舗中心の小売市場全体から
顧客を奪われていると考えることができます。しかも、年々、EC市場の
占める割合は増加傾向にあるわけです。
ECには確かにお客さんに「コンビニでさえ不便」と思わせるだけの
利便性があります。しかし、だからといって、コンビニや一般のリアル
小売店はECに勝てないということではありません。
ECとリアル店舗とを対立軸で考えるからいけないのです。
対立軸という考え方を改め、ECに積極的に近づくことです。
ECの利便性に慣れ親しんだ消費者に、敢えてEC抜きで対応しなければ
ならないという理由はどこにも見つかりません。
「リアル店舗とネット通販の融合」、つまりオムニチャネルをめざすべき
だと私は思っています。
この続きは、次回に。