書籍「すごい物流戦略」オムニチャネルと物流戦略④
● お客さんが求める「便利さ」はますますハイレベルに
マーケティングを少しでもかじったことのある人であれば、「マーケ
ティングの4P」をご存じだと思います。
1961年に、「Product(製品)」、「Price(価格)」、「Promotion(広告)」、
「Place(流通)」の4つのPを組み合わせることにより、効果的なマーケ
ティング活動ができるという考え方です。
そして時代が変わり、メーカーや流通企業の間でも顧客志向が広がり、
お客様視点での事業展開が重要視されるようになると、それまでの作り手
視点、販売者視点で考えられた4Pの要素を、それぞれお客様目線(=買い手
視点)に落とし込んでいく考え方、マーケットインの発想が注目される
ようになりました。
それが1993年に広告学者のロバート・ラウターボーンが提唱した4Cです。
4Cとは「Customer value(顧客価値)」、「Customer cost(顧客コスト)」、
「Communication(コミュニケーション)」、「Convenience(利便性)」の
ことを指しています。
さらに時代が進み、インターネットが社会インフラとなり、スマート
フォンが普及し、ECが急成長を遂げるなかで、4Cの中身も変容して
きました。
例えば、お客様とのコミュニケーションは、マスメディアを中心とした
ものからPCや携帯電話・スマートフォンへとシフトし、One to Oneの
マーケティングが実現できるようになりました。
コミュニケーション以上に進化が著しいのが、「コンビニエンス(利便
性)」です。
少子高齢化の進展、都市生活者の増加、ECの成長などの要因が複合的に
組み合わされ、「もっともっと便利に」=スーパーコンビニエンスが望ま
れるようになりました。それに対応できるか否かが、お客様から選ばれ
るかどうかのポイントになってきているのです。
つまり、「お客様が商品を欲しいと思ったときに、いつでも注文でき、
希望する場所で受け取れる」オムニチャネルが他社との差別化を実現
する大きな要因になるのです。
● 脱チェーンストア理論。レジ通過売上げでなく、商圏内売上げの
発想を?
主な業態別に買い物の拘束時間を比べてみましょう。
EC(ネット通販)の場合、自宅から注文すれば、商品は宅配会社が自宅まで
届けてくれます。注文さえしてしまえば、商品が届くギリギリまでは自由に
時間を使えます。
次にコンビニでの買い物の場合は、最寄りの店舗まで歩き、商品をレジで
精算し自宅まで持って帰る、という手間がかかります。
コンビニまでの距離にもよりますが、少なくとも10分程度は時間をとら
れることになります。
そしてスーパーを利用する場合。自宅から車で最寄りの食品スーパーに
行き、駐車場の空きスペースを探して車を止め、入店。
買い物を終えレジで精算し、再び駐車場に向かいます。
商品を車に積み込み、自宅に帰ります。
駐車場から店内に入るまでも意外と時間がかかります。
いくら急いで買い物をしたとしても、食品スーパーを利用した場合は
最低でも30分くらいはかかるでしょう。
同じ買い物をするとして、あなたはどの方法を選ぶでしょうか。
小売・流通業界において、物流機能は長らく裏方的な存在で、しかも、
安ければ安い方がいいという考えがありました。しかし、今は明らかに
そういう時代ではありません。
現在、物流こそが差別化を生み、競争優位を確立する切り札になって
いるのです。
日本国内のリアル小売市場は、急激に進む少子高齢化、ネット通販の
進展により今後は徐々に縮小していくでしょう。
そうした社会環境の変化もあって、これまで多店舗展開による成長を
図ってきた大手小売業では、売上げづくりに対する考え方を変えなけ
ればいけません。
これまでは、「売上げ=1店舗あたりの売上げ×店舗数」という考え方が
基本になっていました。既存店の売上げが落ちても、店舗数を増やせば、
全社の売上げを伸ばすことができるという考え方です。
しかし、EC化が進む今は、新規出店によって売上げ増を確保するという、
チェーンストア理論に則った考えでは、採算がとれません。
そこで、私は脱チェーンストア理論として、「売上げ=1顧客あたりの
売上げ×顧客数」という考え方にシフトすべきだと言い続けています。
店舗であれ、PCであれ、スマホであれ、お客さんとの接点を増やし、
買い物利便性を提供し続けることで、買い物機会を創造し、お客さん
1人ひとりにできるだけたくさんの買い物をしてもらうという発想です。
この考え方のもと、対象商圏あたりでどれだけお客さんを確保できるか
が重要になってきています。レジ通過売上げは、ECの進展で減っていき
ます。しかし、店舗を閉店すれば、その店舗周りのEC売上げも落ちます。
なぜなら、近くに店舗がある安心感があるから、ネットでも購入して
いるからです。だから、各店の商圏内のEC売上げも店舗の成績にして、
店舗売上げとして計上すべきなのです。
この続きは、次回に。