田中角栄「上司の心得」㉖
・「ノーと言える勇気」を見直せ
部下にとって一番困る上司とは、判断を仰いでも「イエス」「ノー」が
明確、迅速に出てこない人物である。部下にゲタを預けることで、責任
回避、自己保身が透けて見えるということでもある。
ひるがえって、田中角栄は陳情はじめあらゆる頼まれ事で、曖昧な返事は
一切なく、受けられるものは即「イエス」、どう判断しても無理なものは
「ノー」と即断した。
田中同様の〝叩き上げ〟で国政に出、のちに官房長官や自民党幹事長と
して米誌「タイム」に「自民党きっての最高戦略家」と報じられたことも
ある野中広務は、出身の京都府園部町議会の議長時代、時に39歳で郵政
大臣に就任した田中に陳情を通して初めて会っている。
そのときの田中の印象を、野中はおおむね次のように告白している。
「園部町の郵便局が老朽化して困っているからと、建て替えのための
陳情書を持って目白の田中邸へ伺った。田中さん、ろくに私の説明も
聞かず、『郵便局か。よし分かった』と言うや、傍らの秘書に『早急に
処置』との文言のメモを渡し、『すぐ役所に届けろ』と言っていた。
その翌年6月には、田中さんは内閣改造で郵政大臣を辞められていたが、
キッチリ補正予算に郵便局の改築費用を入れておいてくれた。
以後も田中さんとは何度も顔を合わせたが、できること、できないことの
判断はなんとも早かった。
例えば、陳情でも、その人の肩書きなどは関係なく、その陳情が本当に
必要なものか否かの判断で即断した。政治家かくあるべきを教えられた
ものだった」(「新潮45」平成22年7月号=要約)
その後、野中は国政に転じるや、迷わず田中派入りをした。
すでに、田中は金脈・女性問題で首相を退陣、さらにロッキード事件で
逮捕という〝汚名〟を背負っていたが、田中派入りに対しての支持者の
批判、異論を超え、田中に身を預けたということだった。
ちなみに、この野中には名言があり、「ケンカは必ず格上とやれ。格下に
勝っても頭角を現す兵数にはならない」というものだった。
上司諸君、ケンカをやる場合は、自分の上司、上役とやれ、である。
部下とのそれは、時として「いじめ」として受け取られることが多い。
上司とガップリ四つの相撲を取れてこそ、また部下の握手があるという
ことである。
● 迅速
物事の進みぐあいや行動などが非常に速いこと。また、そのさま。
「迅速な報道」「迅速に処理する」
● 責任回避
責任をとらずに逃げる、逃れること。
● 自己保身
自分自身の利益や身分などを守ること、を意味する表現。
特に、社会的な地位や名誉や経済的な利権などに関した自分自身の
利益を守る態度のことを指す。
● 陳情
目上の人に、実情や心情を述べること。特に、中央や地方の公的機関、
または政治家などに、実情を訴えて、善処してくれるよう要請すること。
また、その行為。「国会に陳情する」「陳情団」
● 曖昧
1. 態度や物事がはっきりしないこと。また、そのさま。あやふや。
「曖昧な答え」
2. 怪しくて疑わしいこと。いかがわしいこと。また、そのさま。
「曖昧宿 (やど) 」
● 汚名
悪い評判。不名誉な評判。「汚名を着せられる」「汚名をそそぐ」
「汚名返上」
● 異論
他と違った意見や議論。異議。「異論を唱える」
● 議論
互いの意見を述べて論じ合うこと。また、その内容。
「議論を戦わす」「議論を尽くす」「仲間と議論する」
● 異議
1. 一つの意見に対して、反対または不服であるという意見。
異論。異義。「異議を唱える」
2. 法律用語。
㋐ 法律上の効果を生じさせないために、相手の行為に対して
反対・不服の意思を表示すること。
● 兵数(へいすう・ひょうすう)
兵士の人数を意味する語。
この続きは、次回に。