田中角栄「上司の心得」2-①
● 「自分の言葉」で話せ。借りものは、一発で見抜かれる。
借りものでない「自分の言葉で話せるかどうかは、部下あるいは多くの
人の前でのスピーチなどで、説得力たりうるかの大きな分かれ道になる。
よくシタリ顔でウンチクをまくし立てるが、聞き手があとで振り返って
みると、「さて、何の話だっけ—-」という話し手がいる印象に残る話の
核心が、じつは何もないのである。
その「何の話だっけ—-」となる大きな原因は、まくし立てる言葉の中に、
「自分の言葉」がないことにある。新聞、テレビ、本、雑誌、あるいは
友人、知人から借りた「他人の言葉」の羅列ということである。
ある程度、世の中でもまれた聞き手なら、こんな借りものは一発で見抜いて
しまう。これが商談相手なら、「コイツは何もない男だ。話が信用でき
ない」で、会社に戻るより早く「この商談は見送りたい」との電話が
入ったりすることになるワケである。
対して、田中角栄の言葉には、一切、借りものがなかった。
すべて、「自分の言葉」で周囲、部下を説得してみせたのだった。
その田中のDNA (遺伝子)を引き継いだのが、田中の長女・真紀子であった。
政界入りし、外務大臣にまで抜擢されたのが、周囲への気配りが乏しく、
唯我独尊的なところも災いして残念ながら〝失脚〟した形だったが、
そのスピーチ力は父・角栄に匹敵するものであった。
大衆の心を、一瞬のうちにわしづかみにしてしまう能力は出色と言えた。
中年女性を中心とした圧倒的人気も、このスピーチ力にあったと言えた
のである。
もとより、真紀子のスピーチを聞いていると、角栄同様、一切の借りものが
なかった。すべて、自分の実体験、持ち前の鋭い直感力と感性の強さから
来ていた。加えて、なかなかの迫力で押しまくるのだから、説得力十分、
耳にする人の多くが思わず引き込まれてしまうということだった。
平成10(1998)年7月の自民党総裁選に立候補した小渕恵三、梶山静六、
小泉純一郎の3人を、それぞれ「凡人」「軍人」「変人」と一言で表現、
その後も、どこか茫洋としてキレ味に乏しかった森喜朗首相(当時)の
名前を「シンキロウ(蜃気楼)」と読んでみせたのは、〝名人芸〟と言っても
良かったのである。スピーチ力で首相が決まるのなら、田中真紀子の
「日本初の女性首相」は間違いないところだったが、惜しむらくはと
いうところであった。
● シタリ顔
うまくやったという顔つき。得意そうなさま。
得意顔。「したり顔で話す」
● ウンチク
うんちくとは、ある分野について蓄えた知識のこと。
薀蓄、蘊蓄、うん蓄、ウンチクと表記される。
また、その知識について滔々と語ることを「うんちくを傾ける」という。
● 羅列
連ね並べること。また、連なり並ぶこと。
「数字を羅列するだけでは意味がない」
● 抜擢
多くの人の中から特に選び出してある役目につけること。
「主役に抜擢する」
● 唯我独尊(ゆいがどくそん)
この世で、自分ほど偉いものはいないとうぬぼれること。
釈迦(しゃか)が生まれたときに七歩歩き、一方で天を指し、他方で地を
指して唱えたという言葉と伝えられる。
この世の中で自分より尊いものはいないという意味。
● 失脚
失敗したり陥れられたりして、地位や立場を失うこと。
「失言がもとで大臣が失脚する」
● 匹敵(ひってき)
(━する) 同程度であること。 肩を並べること。 つりあうこと。
● わしづかみ(鷲掴み)
ワシが獲物をつかむように、手のひらを大きく開いて荒々しくつかむこと。
「札束を鷲掴みにして逃げる」
● 出色(しゅっしょく)
他より目立ってすぐれていること。「出色の出来栄え」
● 直感力
「直感力」とは、「物事を感覚的に判断する力」です。
このように選択をする場面などで、瞬時に感覚で正しい選択ができる人を
「直感力の鋭い人」と言います。
単なる「野生の勘」ではなく瞬時にその時の状況や目的に沿って自分の
中にある経験や情報を引き出すことで発揮される力です。2020/06/12
● 感性
物事を心に深く感じ取る働き。感受性。「感性が鋭い」「豊かな感性」
● 茫洋(ぼうよう)
広々として限りのないさま。広くて見当のつかないさま。
「―たる海原」「―とした人物」
この続きは、次回に。