実践するドラッカー[思考編] ⑮
Chapter3
∵ 貢献なくして成果なし
組織は存在することが目的ではない。種の永続が成功ではない。(中略)
組織は社会の機関である。外の環境に対する貢献が目的である。
(『経営者の条件』—–p.34)
組織は、外の世界に評価されて初めて成果を上げることができます。
組織の成果に貢献するのは私たち一人ひとりですが、現実には、私たちの
貢献は外の世界と分断されがちです。
組織が大きくなればなるほど顧客との距離が離れ、外の世界ではなく、
組織内の問題や雑事に忙殺されてしまうからです。
注意しなければならないのは、組織には、常に内部へと意識を引き込む
力が働いていることです。仕事に取り組む際には、顧客と社会的役割から
目をそらさないよう気をつけましょう。
そのうえで、貢献に焦点を合わせることの大切さを考えていきましょう。
A lesson from P.F.Drucker
∵ 外の世界に目を向ける
貢献に焦点を合わせることによって、自らの狭い専門やスキルや部門では
なく、組織全体の成果に注意を向けるようになる。
成果が存在する唯一の場所である外の世界に注意を向ける。
『経営者の条件』—p.79
成果は、顧客がもたらしてくれるものです。成果は組織の外にあり、
組織の中にあるのはコストです。
コストとは、成果を得るために消費される経営資源のことです。
そしてヒト・モノ・カネ・情報などの経営資源のうち、ヒトだけが価値を
生み出すことができます。
本書二四ページで見たように、知識労働者を管理できるのは、自分自身
意外にいません。その際、貢献の焦点を自分だけに合わせていると、成果を
あげることはできません。自らの貢献が、外の世界につながって初めて
成果に結びつけます。そのときようやく、給料を吸い上げる人、コスト
としてのヒトから、成果をあげる人になるのです。
ドラッカー教授は『経営者の条件』の中で、「組織が成長するほど、特に
成功するほど、組織に働く者の関心、努力、能力は組織の中のことで占領
され、外の世界における本来の任務と成果を忘れていく」と警鐘を鳴ら
しています。
直接顧客と接する部門であれ、接しない部門であれ、常に顧客が喜ぶことは
何かという観点から、自らなすべきことを考えることを忘れないように
してください。
● 占領
一定の場所を独り占めすること。「四人分の座席を一人で占領する」
● 警鐘
危険を予告し、警戒を促すもの。警告。「現代社会への警鐘」
コラム 組織の外に機会あり
組織の外を意識すると、顧客の立場や顧客の目線を知ることができ、
そこからアイデアが生まれます。いくつか例を見て見ましょう。
—–顧客の立場で考え抜く
セブン&アイ・ホールディングスはPOSシステムの売れ筋情報を駆使する
ことで有名ですが、同社の鈴木敏文会長は常々、単に情報を分析するだけ
でなく、顧客の立場に踏み込んで考え抜くよう、警鐘を鳴らしています。
明日の天気が雨で肌寒くなりそうな場合、自分が顧客ならどう思うか、
何を買いたくなるか。仕事に慣れれば慣れるほど、つい過去の経験や
成功をもとに、顧客はこういうものを求めるだろうと思い込んでしまい
がちですが、常に顧客の立場から、情報を知識に転換していくことが
重要なのです。
–—-潜在顧客に着目する
ドラッカー教授を尊敬してやまないという、ファーストリテイリングの
柳井正会長兼社長は、「企業の目的は、それぞれの企業の外にある」と
いうドラッカー教授の言葉から大きなヒントを得たそうです。
来店している顧客だけにとらわれていては広がりがないと考え、まだお店に
足を運んでない顧客をどのように振り向かせるか、そのためにどんな商品が
必要かを考え抜いた結果、フリースやヒートテックといったヒット商品が
生まれました。
—–顧客目線で改善する
歯医者さんに通うのが好きな人は、あまり多くないでしょう。
あの「キーン」という独特の音、痛さなど、苦手の理由はさまざまです。
そこである歯科では、無痛治療を、音を遮断する個室で行うことにしました。
初期投資や運営費を考えると、あまり効率的で内容に見えますが、患者さんに
共通する不安や不満を取り除いたことで、多くの支持を集めました。
—–顧客が求める価値を見直す
理容チェーンQBハウスを展開するQBねっとは、カット以外のプロセスを
省き、徹底的に業務を再構築することで、一○分一○○○円という破格の
値段とスピーディさを実現しました。
それまで、シャンプーからブロー、ひげ剃りまでフルセットで提供して
いたのは、業界側の論理でした。顧客から見れば、本当に自分でできない
のはカットの部分だけ。もっと時間をかけず、あるいは安く済ませたい、
という隠れたニーズがあったのです。
顧客の立場で本来求められている価値を見直すことで、新しいビジネス
チャンスが生まれるのです。
この続きは、次回に。