実践するドラッカー[思考編] ㉞
A lesson from P.F.Drucker
∵ 組織の価値観、自分の価値観
組織には価値観がある。そこに働く者にも価値観がある。組織において成果を
上げるためには、働く者の価値観が組織の価値観になじむものでなければならない。
同じである必要はない。だが、共存しえなければならない。
さもなければ、心楽しまず成果も上がらない。
『明日を支配するもの』—p.210
組織の価値観とは、組織に属する人が共有している姿勢や行動指針のことです。
組織文化、組織風土とも呼ばれます。
トップの価値観が組織の価値観として根づいている会社もありますが、原則として
両者は別個のものです。
組織の価値観は、社長が代わろうと、社員が入れ替わろうと受け継がれていきます。
一夜にしてできるものではなく、一日一日の積み重ねでできあがっているのです。
同時に、組織に属する一人ひとりにも価値観があります。個人の価値観はそれぞれ
多様であり、あえて共通化すべきものではありません。お互いに共感し、尊重し、
共存すべきものです。
自分の価値観に照らしたとき、もし組織の価値観を受け入れられなければ、長期的に
大きな成果をあげることはできません。個人にとっても組織にとっても大きな
損失です。
価値観は、よい、悪いでは判断できません。合っているか、合っていないかで
判断すべきものです。もし合わなければ、組織を去ることがお互いのために
なります。
個人の価値観を知ることと、組織の価値観を確認することは、避けて通れない
ステップです。
A lesson from P.F.Drucker
∵ 価値観を優先する
強みと仕事の仕方が合わないことはあまりない。(中略)ところが強みと価値観が
合わないことは珍しくない。よくできること、とくによくできること、おそろしく
よくできることが、自らの価値観に合わない。世の中に貢献しているとの実感が
わかず、人生のすべて、あるいはその一部を割くに値しないと思えることがある。(中略)
優先すべきは価値観のほうである。
『明日を支配するもの』—p.211
よくできる仕事には、自分の強みや仕事の仕方が存分に生かされているものですが、
その仕事の背景にある組織の価値観と自分の価値観が必ずしも合っているとは
かぎりません。そうしたときの身の処し方をドラッカー教授は教えてくれます。
第一に、組織と個人の価値観が合わず、結果として強みを継続的に発揮できない
ケースです。例えば、倫理観の高い人が、倫理観に欠ける営業アプローチを求め
られるなどです。
多大なストレスを抱えながら働き続けるような場合には、組織を去るべしと教えて
います。心楽しまず、成果は続かないからです。
第二に、組織を移動したとしても、同様の仕事では強みを発揮しきれないケースです。
仕事の中身そのものと個人の価値観のギャップです。実は、ドラッカー教授も
若かりし頃、そうした経験をしています(『プロフェッショナルの条件』)。
「私にとって価値あるものは、金ではなく人だった。自分が金持ちになることに
価値を見出せなかった。大恐慌のさなかにあって、他の仕事の目当てがあるわけ
ではなかった。だが、私は辞めた。正しい行動だった」
価値観は不変のものではなく、一度考えて終わりではありません。
長い人生の中で、組織と自分の価値観を問い続けながら、最も水の合う仕事場を
探していくのです。
この続きは、次回に。