実践するドラッカー[思考編] ㉟
A lesson from P.F.Drucker
∵ 仕事観を明らかにする
成果をあげ続ける人は、フェイディアスと同じ仕事観をもっている。
『プロフェッショナルの条件』—p.108
さまざまな価値観のうち、仕事観は重要なものです。
ドラッカー教授は「完全性を追求する」という仕事観をもっていました。
一八歳のドラッカー青年がその価値観を身につけるきっかけとなったのは、ある
一冊の本との出会いでした。
ギリシャ時代の話です。フェイディアスはパルテノン神殿の彫刻を任されたチームの
長でした。無事に完成に漕ぎ着け、フェイディアスはアテネの会計官に請求書を
出しました。ところが、こともあろうに、アテネの会計官は支払いを拒んだのです。
「誰にも見えない彫刻の背中の部分まで彫って、請求してくるとは何事か」
これに対して、フェイディアスは次のように答えました。
「そんなことはない。神々が見ている」
この話に触れてドラッカー青年は、一つの決心を固めました。
「私は、神々しか見ていなくとも、完全を求めていかなければならないという
ことを、そのとき以来、肝に銘じている」と。
ドラッカー教授は、「あなたの本の中で最高のものはどれですか」という質問を
よく受けたそうですが、常に「次の作品です」と答えていたそうです。
まさに完全を求め、九十五歳まで書き続けたのです。
成果をあげ続ける人は、誰も見ていないところでも流すような仕事は決してせず、
常に真摯に、誇りをもって、完全を求め続けるのです。
A lesson from P.F.Drucker
∵ 自ら適所に適材を配する
自己の適所を知るのは、二十代半ばをかなり過ぎてからである。
やがて自己の強みがわかってくる。自己の仕事の仕方もわかってくる。
自己の価値観もわかってくる。したがって、得るべき所も明らかとなる。
『P・F・ドラッカー経営論』—-p.610
一般に「適材適所」という言葉は、経営者の組織の幹部が人材を配置するときに
使われています。しかし本来ならば、自分のことは自分が一番わかっているはず。
自ら適所に配置できるようになるのが望ましいといえます。
ドラッカー教授は、最初の職場は賭けだといいます。自分の強みなどは、仕事を
経験して見ないとわからないからです。
強みや仕事の仕方、価値観などは、仕事の経験を積めば積むほど鮮明になって
いくので、それに伴って得るべきところもわかってきます。
つまり、自らの適所が見えてくるわけです。
ドラッカー教授自身は、自分は組織で働くことが不得意だと知っていました。
だからこそ、雑誌『タイム』で有名にメディア王ヘンリー・ルースや、マッキンゼー・
アンド・カンパニーを不動の地位に押し上げたマーヴィン・バウワーなど、大物たち
からの数々の誘いを断ってまで、独立独歩の道を貫きました。
自分の所属する組織の中には、無数の貢献の場があります。
もちろん、所属する組織の外にもあります。こうした数ある貢献の場で、いかに
自分のもてるものを生かせるかを常に考えて行動するよう心がけましょう。
この続きは、次回に。