実践するドラッカー[行動編] ⑯
A lesson from P.F.Drucker
∵関係者を巻き込む
意思決定の実行を効果的なものにするためには、決定を実行するうえで
何らかの行動を起こすべき者、逆にいえば決定の実行を妨げうる者全員を、
決定前の議論の中に責任を持たせて参画させておかなければならない。
『マネジメント<中>』—-p.132
ドラッカー教授は、コンセンサスを得る形の日本流の意思決定を高く
評価しています。具体的には、意思決定に費やす時間は欧米より長いが、
関係者を巻き込むため、実行までの時間が短いという点を評価しています。
組織は人で構成されており、意思決定の成否は、行動と成果に人々が
どれだけ意思と責任をもって関わるかにかかっています。
成果をあげる唯一の方法は、あげるべき成果の形をはっきりさせ、必要な
能力をもつ人たちを巻き込み、共有し、期日を決め、具体的な行動を開始
することです。
決定後に関係者に売り込むのではなく、決定前に巻き込むことで、当事者
としてやる気が刺激されます。他者を巻き込む能力は、一人ひとりの貢献を
束ね、組織の成果に結びつける際に欠かせません。
適切な成果に結びつける際に欠かせません。
適切な人を巻き込み最善の意思決定が行われれば、迅速な行動がなされ、
いち早く成果を手にすることができます。
● コンセンサス
コンセンサスは単に意見が一致するというものではなく、会議などでは
全会一致の合意を指し、このような反対意見のない状態で決定する会議
方式をコンセンサス方式と呼んでいます。
● 成否
事が成ることと成らないこと。成功するか失敗するか。
「結果の―は問わない」
A lesson from P.F.Drucker
∵複数の選択肢を得る
反証がないかぎり、反対する者も知的で公正であると仮定する。
明らかに間違った結論に達している者については、「自分とは異なる現実を
見て、異なる問題に気づいているに違いない」「もしその意見が知的かつ
合理的であるとするならば、彼はどのような現実を見ているか」と考え
なければならない。
『マネジメント<中>』—p.128
誰が何をいったかに価値はありません。意見に対する成否、当否を問う
議論すら必要ありません。
真摯な態度で述べられた意見は、一つの仮説として扱うべきだからです。
ドラッカー少年が八歳だった頃、クリスマスパーティーでの出来事です。
闇で肉を仕入れたホテル経営者を非難する大人たちを尻目に、ドラッカー
少年は、その男を擁護する反対意見を述べました。
すると、ある大人はこう忠告しました。
「君のいうとおりかもしれない。しかし変わった意見であることは間違い
ない。だとすると、ちょっと気をつけたほうがいい」
ドラッカー教授は生涯この種の忠告に耳を貸すことなく、あらゆるものに
透徹した眼を向けました。むしろ反対意見を歓迎し、よりよきものを導く
方法としました。なぜなら、問題を多面的に見て本質を掴むことができる
からです。他の人が、自分とは違うどんな現実を見ているのか、何に気が
ついているのかを明らかにすることが重要です。
より多くの目が、問題の本質を浮き彫りにしてくれます。
新しい意味や評価基準が見つかれば、検討に値する貴重な選択肢が増える
でしょう。反対意見を尊重する姿勢や文化をつくることは、大きな成果を
手にする秘訣です。
● 反証
相手の主張がうそであることを証拠によって示すこと。
また、その証拠。反対の証拠。「―を挙げる」
● 真摯
まじめで熱心なこと。また、そのさま。「―な態度」「―に取り組む」
● 仮説
ある現象を合理的に説明するため、仮に立てる説。
実験・観察などによる検証を通じて、事実と合致すれば定説となる。
● 擁護
侵害・危害から、かばい守ること。「憲法を―する」「人権―」
● 透徹
1. 澄みきっていること。透きとおっていること。「―した秋の空」
2. 筋道が、はっきりと通っていること。「―した理論」
コラム ポストモダンの七つの作法
「この世はますます複雑になっていく。やがて人間の手に負えなくなる
かもしれない」
ドラッカー教授はかつて、このように述べたことがあります。
モダン(近代合理主義)からポストモダン(脱近代合理主義)への移行を見通し、
社会の本質、人間の本質を見抜いた教授だからこそ、このように感じら
れるのです。
それだけ複雑な世の中ですから、すべてを合理的に切って考えることは
不可能です。理屈だけで説明のつくことばかりではありません。
私たちの目に映るものはほんの一部であり、因果関係でものを見るのは
危険です。
かといって、わかるまで待っているわけにはいきません。
ですから、わかったものを大切にすることから始めましょう。
「すでに起こったこと」は結果として目の前にあるので、学びを得ることが
できます。また、他者の目から見た多様な現実を知ることも、同じような
理由で欠かせません。
そこで、私たちがとるべき姿勢を「ポストモダンの七つの作法」として
以下にまとめました(上田惇生著『ドラッカー入門—万人のための帝王学を
求めて』)。
複雑な時代の意思決定に役立ててください。
① 見る、そして聞く
あらゆるものを命あるものとして全体を見ることが必要です。
しかも、自分の視点で見るだけでなく、他人の視点で見たものについて
広く聞くことです。事実ではなく、意見から始めることが重要なのは
このためです。
② わかったものを使う
複雑でわかりにくい時代だからこそ、わかったものは使わなければなり
ません。「すでに起こった未来」は、重要な示唆を含んでいます。
現実を注意深く観察することで、これから大きなうねりとなるものを知る
手かがりを得ることができます。「予期せぬ成功」も大事です。
これもまた、すでにわかったものだからです。
③ 基本と原則を補助線として使う
すでにわかった基本と原則を大事にしましょう。
例えば、経営の目的はつまるところ、世のため人のためです。
大上段に構える必要はありませんが、忘れてはなりません。
世のため人のためという基本を忘れると経営は失敗します。
④ 欠けたものを探す
わからないもの、未知なるものを知ろうとすることで、イノベーションが
可能となります。ギャップのあるところ、欠けたところにチャンスは
隠されています。
⑤ 自らを陳腐化させる
人の手になるものはすべて陳腐化します。
いかに画期的な新製品であっても、世に出た瞬間に陳腐化が始まります。
それは知識についてもいえることで、学んだ瞬間から陳腐化は始まって
いるのです。自ら先手を打って、自らを陳腐化させるのみ、です。
⑥ 仕掛けをつくる
何でも仕掛けをつくることです。
例えば、ドラッカー教授はうまくいかなかったことの検討に時間を費やす
のならば、うまくいったことの検討に同じ時間を使います。
それが成果をあげる秘訣です。
⑦ モダンの手法を使う
モダンの合理的な手法を完全否定するのも間違いです。
時間管理のように、分解して組み立て直すというモダンの手法も、使える
ものはおおいに使いましょう。
この続きは、次回に。