お問い合せ

「人を動かす人」になれ! ⑰

20.部下は「たったこれぐらいのこと」に感動する

 

教育現場、すなわち学校の荒廃が叫ばれて久しい。

わたしはこの大きな原因の一つが、生徒を無視する先生が増えてきたことに

あると考えている。たとえば、授業中に一部の生徒がぺちゃくちゃしゃ

べっていようが、弁当を食べていようが、注意一つしない先生がいると

いう。反抗的な態度をとる生徒は、先生に自分の方をむいてもらいたい

のだ。これを先生が無視するから、小声だったのが大声でしゃべるよう

になり、やがてはほかの生徒まで巻き込んで教室の後ろで騒ぎはじめる。

ここまで来ると歯止めが利かなくなり、物を壊したり、先生や同級生に

暴力を振るうと行ったところまでエスカレートする。

わたしがいいたいのは、生徒を無視したり、生徒の行動に関心を示さない

先生に教育者としての資格はないということだが、これは上司と部下との

関係にもそのまま当てはまる。

わたしがサラリーマン時代の出来事で、いまだに強烈な印象として残って

いることがある。当時わたしはまだ駆け出しの技術者だったのだが、

ある日、社長と廊下ですれ違った。わたしが会釈をして通り過ぎようと

したとき、社長が「永守君」と声をかけてくれた。

社長が自分の名前を覚えてくれている。これだけでもうれしかったのだが、

「君がつくったモータは音も大きいし、ほかにもいくつか問題点がある」

と単刀直入にいわれた。

名前だけでなく、どんな仕事をしているのかも社長は知ってくれている。

わたしの開発したモータの評価は惨めなものだったが、社長がここまで

自分に関心を持ってくれているという事実に、わたしは感激してしまった。

同じ会社の専務も廊下やエレベーターのなかであれこれ声をかけてくれ

るのだが、いつも胸の名札をちらちら見ながら名前を呼び、仕事に関する

話はほとんど出てこなかった。

常務にいたっては、あいさつを交わすぐらいで、それ以上踏み込んだ会話は

皆無であった。「たったこれぐらいのこと」と思われるかも知れない。

しかし、人の上に立ち、人を動かしたいと思うのであれば、この違いの

重みに気づく必要がある。わたしはこのエピソードを教訓に、社員には

気軽に名前やニックネームで呼びかけ、必ず二言三言わたしの方から言葉を

かけるようにしている。これを邪魔臭がるような人間は、人の上に立つ

資格はない。また、こちらから積極的に声をかけてみると相手のことも

よくわかる。あるとき、廊下ですれ違った社員に、「○○君、どうや調子は」

と声をかけたところ、「ハイ、絶好調です」と明るく元気な返事が返って

きた。この社員の日ごろの仕事ぶりは、この一言からも簡単にわかる

ものである。

 

 

この続きは、次回に。

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