「人を動かす人」になれ! ㉓
26.部下の将来を具体的な数字で見せろ!
「君は仕事と家庭とどちらが大切だと思う」
わたしは、ときどきこんな意地悪な質問を独身社員にしてみることがある。
わが社のようにハードワーキングを標榜しているような会社では、いずれ
結婚すると奥さんからこの手の質問を受けるのは必至だからである。
人間には本音と建前があるし、まだ家庭を持った経験がない彼らの答えを
そのまま鵜呑みにするわけにはいかないが、まだ仕事に充分な手応えを
感じていないと思われる社員ほど「家庭」と答えることが多い。
いずれの答えが返ってきても、「両立させる必要性」を次のように説く。
「いまウチの会社では、入社して一○年すると仕事で頑張った社員とそうで
ない社員とでは、給料で倍ぐらいの差がつく。二○年なら三倍になる。
これからは、その差ももっと開いていく。日本電産は年功序列ではないが、
一度差がつくと後になって何倍も努力しないと、その差は縮まらない。
本当に家庭を大切にしたいと思うなら、毎月の収入は少ないよりも多いに
越したことはない。しかも、係長で定年を迎えたのと部長で迎えたのと
では、退職金でこれぐらいの差がつく。老後のことを考えたらこの差は
非常に大きい。だから、いまのうちにしっかりとした計画を立てて、仕事に
打ち込む時期と家庭サービスに徹する時期をある程度決めてしまえばいい。
そうすれば、必ず両立できる」
案外見過ごされがちだが、これは社員の職業観とも密接に関係してくる
重要な問題である。いまの若い社員は何でもわかっているような顔をして
いるが、このあたりのことはほとんど、わかっていない。
会社に来ていれば給料はもらえるし、将来も漠然と何とかなるだろう
ぐらいにしか考えていない。だからこそ、いまから頑張れば一○年後に
これだけ、二○年後にこれだけ、定年後にこれぐらいの生活の違いが
できることを、具体的な数字をあげて説明してやる必要がある。
わたしの考える最もすばらしい人生とは、来る日、来る日が過去の人生の
なかで最良の日であると実感できる、すなわち昨日より今日、今日より
明日がより充実していることだ。同じところに止まっていては、これを
感じることはできない。われわれの学生時代には友人たちとこうした話を
盛んにしたものだ。今の若い人は仲間内ではこういった話をしないよう
だが、関心がまったくないとは思わない。
こうした話をするには、上司の方から胸を開いていくべきであろう。
● 標榜
1. 善行をほめたたえ、その事実を記した札を立てて世に示すこと。
また、その札。
2. 主義・主張などをはっきりと掲げ示すこと。
「自由と民主主義を―する政党」
● 本音と建前
「胸三寸」は心の中に秘められた思いを表す言葉でしたが、それを
「三寸」という長さで表現するとは面白い発想ですよね。
このように普段何気なく使っている言葉を一度深掘りして考えて
みると、面白い発見が見つかるかもしれませんよ。
また、「本音と建前」のように語源を知るとその言葉に対する
視野が広がるということもあります。
本音と建前(ほんねとたてまえ)は、何かしらに対する人の感情と
態度との違いを示す言葉である。
しばしば日本人論に見出される言葉でもある。
● 鵜呑み
物事の意味を十分に理解しないまま、他人の意見などを受け入れる
ことを意味する表現。
「鵜呑みにしてはいけない」などのように用いる。
この続きは、次回に。