「人を動かす人」になれ! ㉘
31.相手をこき下ろして闘争心に火をつける方法
順風満帆なとき、人間の強さと弱さには目に見えるほどの大きな差はない。
しかし、苦境に立たされたとき、挫けそうになったときにそこから逃げ
出そうと考える人間と、その場に踏みとどまって立ち向かっていこうと
する人間との差は、五倍や一○倍ではない。後になれば、一○○倍以上の
差がついてくると思う。
そうした人間の闘争心に火をつけるのは、やさしい言葉をかけたり、激励
してやることとはかぎらない。相手によっては、暴言とも取れるような
こき下ろしが効を奏する場合もある。
そんなエピソードを紹介しておこう。
創業して数年目ぐらいだったと記憶している。新卒で入社してきた社員の
一人が、一年も経たないうちに辞めたいといってきた。
理由を尋ねてみると、どうしても学校の先生になりたいのだという。
普通は、新入社員に対してはボロクソに行ったりはしないのだが、彼は
同期のなかでは見どころがありそうだと思っていた社員の一人だったので、
わたしはあえて次のようにこき下ろした。
「先生になりたい? 生意気なことをいうな。わが社でたった一年も我慢
できないような根性のない人間が、厳しい試験に受かるはずがない。
もしも慣れたら君の前で逆立ちしたる。だから、もしも先生になれたら、
わたしのところに連絡してくれ」と—–。
翌々年、彼はニコニコしてわたしのところへやってきた。
そして、「社長、約束やから逆立ちしてください」といった瞬間に、大粒の
涙がこぼれた。「試験に合格しました。思っていた以上に辛くて、何度か
諦めかけました。すると、社長の『君みたいな根性なしが、先生になれ
たら、逆立ちしたる』といった顔が浮かんでくるんです。
それで、必死に頑張って、やっと受かりました。
最後の方は声にならない。涙で顔をクシャクシャにして、「ありがとう
ございました」を連発し、何度も何度も頭を下げて帰っていった。
残念ながら彼の場合は、わが社でその力を発揮してもらうことはできな
かったが、別の世界で活躍している。いまでもたまに電話をかけてきて
くれることがあるが、その声からも、年々たくましくなってきている
ことがわかる。
● 闘争心
「戦って勝負に勝とうとする意欲」「相手に勝とうとして争う意欲」
● 順風満帆(じゅんぷうまんぱん)
船が帆に追い風をいっぱいに受けて快く進むこと。 また、そのように
物事が滞りなく順調に進むたとえ。
[解説] 「順風に帆を揚げる」という言い方があります。
ものごとがすべてうまくいくという意味です。
● 苦境
苦しい境遇。苦しい立場。
「―を乗りこえる」「―に立つ」「―に陥る」「―に直面する」
● 境遇
その人が置かれた、家庭環境・経済状態・人間関係などの状況。
身の上。境涯。「恵まれた―に育つ」
● 効を奏(そう)する
施策や作戦が、見事に成功すること。
「功を奏する」「奏功する」とも言う。
● エピソード(episode)
1. 小説・劇などで本筋の間にはさむ、本筋とは直接関係のない、
短くて興味ある話。挿話。
2. ある人について、あまり知られていない興味ある話。逸話。
この続きは、次回に。