「人を動かす人」になれ! ㉞
4章 可能性を秘めた人間を見抜く、育てる
38.仕事も人材も、ベストを求めずベターを追求せよ
わが社には九○点、一○○点満点の人材はいない。
若干ひいき目に見ての点数だが、六○点ぐらいの人材ばかりが揃っている。
なぜ六○点かといえば、競争相手よりも開発力や営業力でほんの少しだけ
上回っているからだ。メインの商品がモータ(精密小型モータと呼んで
いる)ということもあって、現実にはライバルに大差をつけるのはむずか
しいのも事実だが、平均点でほんの少しでも上回ってさえいれば、グロー
バルな競争にも勝てるということだ。つまり、「ベストを求めず、徹底的に
ベターを追求する」というのがわたしの経営哲学であり、人材面でもこの
精神を貫いてきた。
たとえば新卒の採用なら、世間で評価の高い一流の学校から順に採用して
いく企業もあるようだが、わが社の場合はまったく関係がない。
成績そのものも参考程度で重視していない。では、採用の基準をどこに
置いているのかといえば当社の『三大精神』すなわち「情熱・熱意・執念」
「知的ハードワーキング」「すぐやる、必ずやる、出来るまでやる」の
真の意味を理解し、実践できるかどうかである。いくら勉強できても、
夕方の五時になれば退社してしまう。あるいは、一流の学校を卒業する
予定であっても、将来の確たる目標がないといった人物は、わが社には
不向きだ。過去二五年間の結果を見ても、学校の成績が優秀だったという
だけで採用したのは、まず育っていないし、二○年前に行った「早飯試験」
で採用した連中だ。ちなみに早飯試験というのは、メシを食べるのが早いか
遅いか、これだけで採用を決めたのだ。この年の応募者は一七○名。
このなかから面接で絞り込んだ約七○名に昼食を食べてもらい、早く食べ
終わった順に三三名を無条件で採用した。
この理由は、飯を早く食べる人間は何をやらせても早いに違いない。
しかも好き嫌いなく何でも食べられるのは健康な証拠である、といった
仮説に基づいた採用試験であった。わが社は、これ以外にも「大声試験」
「便所掃除試験」など、世間から顰蹙を買うような試験を行ってきたが、
一番成功したのがこの早飯試験であった。
人を教育するにしても、動かすにしても、わが社であればわが社の精神に
沿った素質が本人になければ意味がない。
わが社の六○点主義は、すなわち「一人の天才よりも一○○人の協調できる
ガンバリズムを持った凡才によって会社は支えられなければならない」と
いう考え方に起因している。
成績が優秀であるよりも、三大精神を実践できる素質を持っていること。
これを見極める方法の一つが早飯試験だったのである。
● グローバル
グローバル(global)は「地球規模の」「球状の」などを表す英語から
来ています。 「国境を越えて地球全体にかかわるさま」を表し、「世界的
規模の」という意味でも使われます。 また、コンピューター関連では
「汎用の」「広域の」などの意味でも用いられます。2006/05/08
● ベスト(best)
1. 最上。最良。最優秀。また、そのもの。
「新製品の中ではこれが―だ」「自己―の記録」
2. 最善。全力。「―を尽くして戦う」
● ベター(better)
他よりよいさま。比較的よいさま。「ベストとはいえないが―な方法」
● 顰蹙(ひんしゅく)を買う
良識に反する言動をして人から嫌われ、さげすまれる。「世間の―・う」
● 天才
生まれつき備わっている、並み外れてすぐれた才能。
また、そういう才能をもった人。「数学の―」「―肌のプレーヤー」
● 凡才
平凡で、特にすぐれたところのない才能。また、そのような才能の人。
● 起因
ある事の起こる原因となること。「機械の未整備に―する事故」
この続きは、次回に。