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「人を動かす人」になれ! ㊿+1

6章 叱り方、褒め方②—〝部下〟を動かすこのルール

 

54.叱るときには徹底的に叱る、わたしの理由

 

最近、部下を叱らない、叱れないリーダーが急増している。この理由は

明らかである。他人を叱ればそのアフターケアに叱った数倍のエネルギーが

必要となる。だから、そんなエネルギーを使うくらいならやめておこうと、

最初から放棄しているのである。

一口に人を動かすというが、権威や肩書だけで人は動かない。

相手の心を揺り動かさなければ、部下であろうと人は動いてくれないので

ある。褒めて、かわいがっておけば、イザというときにはいうことをきいて

くれるだろうというのは、リーダーの自分勝手な思い込みだ。

なぜなら、チヤホヤと甘やかしてきた部下にそれだけの心構えはできて

いないし、イザというときに充分な力を発揮するとは、まず考えられない

からだ。

わたしは、幹部が持ってきた書類や図面のできが悪かったとき、みんなが

見ている前で破り捨てたこともあるし、社員に対してもことあるごとに

怒鳴り、叱りつけて教育をしてきた。それも中途半端にはやらなかった。

相手を震え上がらせ、もうこれ以上怒鳴ったり、叱ったりすると夜道で

後ろからナイフで刺されるのではないかという極限までやった。

もちろん、わたしは幹部や社員をいじめてやろうと思って書類を破ったり、

憎くて怒鳴ったり、叱りつけたわけではない。一日も早く部下を叱れる

幹部に育ってほしい。世界に通用する技術や技能、テクニックを身につけ、

プロとしての仕事ができるようになってほしいと考えてのことで、いわば

愛情の裏返しなのである。他人の子供なら多少の過ちがあっても見て見ぬ

振りはできる。しかし、いくら部下であっても所詮は他人、叱る場合の

ルールはある。

その第一番目が、最低でも叱った三倍はアフターケアをすること。

わたしはそのために叱った部下にはたいてい手紙を書いてきた。

口ではとてもいえないような褒めちぎりの内容だ。

二番目は、叱ったことはすぐに忘れること。

わたしは、「いくら叱ってもトイレに行けば忘れる」と社内で公言し、

いつまでもグチグチいうことはない。要するに叱ったことはすぐに忘れ、

褒めたことは紙に書いていつまでも残るようにするということ。

三番目が、「辞めてしまえ」「辞めます」という言葉だけは禁句だという

こと。

わたし自身は、「辞めてしまえ」とは絶対に口にしないと肝に銘じている。

しかし、社員は違う。だから、「辞めます」といわない環境、準備を万全に

整えてから叱る。これらのルールを無視した叱り方は、百害あって一利

なしである。

 

● アフターケア(aftercare)

 

 疾病の回復期の患者や各種の身体障害者に対して行われる健康管理

および社会復帰のための指導。後療法。後保護。

 

● 極限

 

物事の限度ぎりぎりのところ。「体力の―に達する」

 

● 肝に銘じる

 

強く心に留め、けっして忘れないようにすること。

に銘ずる」と書く。

 

● 百害あって一利なし

弊害になることは百ほどあっても、利益になるようなことはつもない

ことから。

 

● 弊害

 

害になること。他に悪い影響を与える物事。害悪。

「―を及ぼす」「―が伴う」

 

 

この続きは、次回に。

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