「人を動かす人」になれ! ㊿+5
58.自分と部下の間に隠し事をしないというルールをつくれ
野球中継を観ていて、最後の土壇場になってひいきのチームの選手が
逆転の一打を放って勝負が決まると気分もスカッとする。
野球ならわずか二、三時間のドラマだが、人を動かす場合にはこうは
行かない。
一発逆転ホームランはないし、サッカーのような劇的なシュートといった
ものもない。
わたしは、勇気を持って叱らなければ強い組織はつくれないし、人を動かす
こともできないと繰り返し訴えてきたが、これもすぐに結果が出るわけ
ではない。たとえば、相手が新入社員であれば、最初は一○回褒めて一回
叱ることからはじめ、少しずつ褒める回数を減らして、叱る回数を増やして
いく。こうした過程で、叱った相手の反応を注意深く観察する。
叱るにしても、褒めるにしても、相手にこちらの気持ちや心が伝わらな
ければ意味がない。
それどころか、「辞める」といい出したり、逆恨みをされたりしないように
充分な注意を払い、逆効果になるようであれば、まずかったと反省して
叱り方や褒め方も変える。まだこの段階では叱った効果も徐々にしか
出てこない。
それでも粘り強くこれを繰り返していく。叱り方もゆるめから入って、
だんだん厳しくしていく。同時に、わたし自身のプライベートをさらけ
出し、彼らのプライベートも話題としてどんどん取り上げる。
趣味や家族のこと、学生時代の友人の話、アルバイトの経験にはじまり、
「彼女はいるのか」「うまくいっているのか」「デートはどんなところに
行くのか」といったことも聞くし、将来の夢を語り合うということもする。
要するに、わたしと社員の間に隠し事をしないという暗黙のルールを
つくっていくのだ。これができない、つまりプライベートの話になると
口を閉ざしてしまうような社員を叱ると、次の日から会社に出てこなく
なったり、かえって反抗的な態度をとるなど、結局は徒労に終わること
が多い。
やがて、叱る回数と褒める回数を逆転させる。このあたりになると多少
強く叱ったとしても、そのときは神妙な顔をしていても、次の日には
ケロッとしている。そして、叱るごとに目に見えて効果があらわれてくる。
しかし、ここまでくるには最短距離でも三年ぐらいはかかると思った方が
よい。つまり、少なくとも三、四年はかけて信頼関係を築き上げ、周辺の
環境も整えてからでなければ、叱って人を動かすことはできない。
根気もいるし、失敗しては試行錯誤を繰り返す必要もある。だが、真に
人を動かすには、これ以上の方法はないとわたしは考えている。
● 土壇場
決断をせまられる、最後の場面。進退きわまった状態。
「―で話がひっくりかえる」「―に立たされる」
● 逆恨み
1. こちらが恨みに思っていいはずの人から逆に恨まれること。
「―を受けるいわれはない」
2. 人の好意を曲解して、逆に恨むこと。また、筋違いなことを理由に
人を恨むこと。「親切のつもりが―される」
● 暗黙
口に出さないで黙っていること。「―のうちに認める」「―の了解」
● 徒労
むだな骨折り。無益な苦労。
「せっかくの努力が―に帰す」「―に終わる」
● 試行錯誤
種々の方法を繰り返し試みて失敗を重ねながら解決方法を追求すること。
「―を重ねる」
この続きは、次回に。