「人を動かす人」になれ! ㊿+4
57.「カッ」と発奮のできる人間に育てろ!
十人十色、百人百様の性格や個性を持つ部下を思い通りに動かそうと思えば、
人情の機微を知ることである。わたしのいう人情の機微とは温情と冷酷さを
合わせ持ち、この相反する二つの感情のバランスをいかにうまくとるかと
いうことである。
わが社の人材育成、そして部下を動かすベースとなるのは叱ることだが、
これも感情に任せて叱りつけるだけなら教育ではないし、誰も人はついて
こないだろう。他人を叱ろうと思えば、相手のプライバシーはもちろん、
家庭の状況、性格、本人の長所、弱点もすべて知り尽くしておく必要がある。
また、叱った後でどういったアフターケアをすれば叱ったことが活きる
のかも、性格につかんでおかなければならない。
要は、一口に叱るといってもワンパターンで叱るのではなく、仮に一○人の
部下がいる管理職ならその一人一人に合わせた一○通りの叱り方、二○○○人の
社員を抱える社長なら二○○○通りの叱り方を身につけ、使い分けなくては
ならないということである。
これができないのなら部下を叱るとか、人を動かそうなんてハナから考え
ないことだ。相手のことを理解しないで叱りつけ、アフターケアもロクに
やらないというのであれば、叱った相手は自信を喪失し、二度と立ち直れ
ないことだって起こり得る。
そうなれば、最後に残るのは相手からの恨みだけだ。
反対に叱られた部下が、「何くそ、これぐらいのことで負けてたまるか」と
発奮するように叱ってこそ意味があり、後々「あのときに叱ってもらった
おかげで——」ということにもなる。
さらにわたしは、単に怒鳴ったり、叱ったりするだけでなく大胆なポストや
権限の委譲、降格もやる。わが社では、二階級、三階級の特進など珍しい
ことではないが、これは本人の努力にスピーディに応えていきたいと考え
てのことだからだ。一方で、「今の状態ではこの人物にこの役職は荷が
重すぎる」と判断すれば、降格させるといったこともないとはいえない。
これで、やる気になって頑張ればすぐに元のポストに戻す。
結論からいえば、叱ったり、降格したりときに「カッ」となってやり直しの
できる人間に育てるのが、人材育成のすべてなのである。
人情の機微を知ったうえで、体を張って部下の教育を行う。
まずこうした企業風土づくりをしなければ、真に人を動かすのは不可能
なのだ。
● 十人十色
● 百人百様
人は、めいめいがそれぞれ違った考え方ややり方をするということ。
百人いれば、百種類のありさま・すがた・かたちがあるという意。
▽「百」は数の多いこと。 「様」はすがた・ありさまの意。
● 機微
表面だけでは知ることのできない、微妙なおもむきや事情。
「人情の―に触れる」
● 委譲
権利・権限などを他の人・機関に譲って任せること。
「執行権を―する」
この続きは、次回に。