「人を動かす人」になれ! ㊿+3
56.褒め言葉を見つけてから叱るのがコツ
相手にいろいろと褒めるところがあるからこそ思い切った叱り方もできる。
わたしはこのように考えている。
たとえば、一生懸命ダイエットに取り組んでいる女性がいるとする。
彼女が見た目にもふっくらしていて、誰の目にもダイエットが必要だと
感じられるようなら、あえてこうした話題にストレートに触れると相手を
いたく傷つけてしまう恐れがある。
ところが、ブームなのかどうか知らないが、そんな必要もないのに「ダイ
エット中だから—–」という女性の場合なら、「冗談だろう。本当にダイ
エットしないといけないの」とズバリ核心に触れることもできる。
これと同じような理屈で、叱る材料は山ほどあるが、褒めるところを
見つけるのに骨が折れる人物は、かえって叱りにくいというのが実感だ。
端的にいってしまえば、こんな人間を叱ったところで、貴重な時間と
エネルギーの無駄づかいだと思えてくるからだ。
普段はめったに口に出して社員を褒めることをしないわたしが、心の
なかではA君はこんな素晴らしい面を持っているとか、B君はこの長所を
もって伸ばしてほしい、Cさんは女性なのにこんなに頑張ってくれている、
といったチェックを欠かせない。そして雷を落とした後には、これらを
使ってアフターケアをする。
この最もオーソドックスな方法が褒めちぎりの手紙を書くことだ。
つまり、口で叱って文章で褒める。叱ったことは後に残さず、褒めた
ことはいつまでも残るようにしておく。
なぜなら、この手紙を本人が一○回読めば一○回、二○回読み返してくれ
れば二○回褒めたことになるからだ。また、しょっちゅう顔を合わせて
いる社員であっても、手紙を直接手渡さずに、切手を貼ってポストに
投函して自宅に送ることもある。これをやるのは主として妻帯者や家族と
同居している社員だ。当然、最初に手紙を受け取るのは社員の奥さんや
ご両親で、「社長から手紙をもらった」ということで家族の関心が集中
する。開いてみると褒めちぎりの内容だから、家族にも胸を張って公開
できる。これでわたしが叱ったことを帳消しにしてもらうのである。
ほかにも、叱った社員と仲のよい同僚に、「今日彼を叱ったんだが、仕事も
熱心だし見どころもある」と耳打ちして、わたしが頼りにしていることを
遠回しに本人に伝えることもある。世間の人は案外気づいていないが、
本人にストレートに褒め言葉をかけるよりも、奥さんや親、同僚などを
通じて間接的に褒める方が数倍の効果がある。
● 骨が折れる
困難で苦労する。 面倒である。
● 端的
てっとりばやく要点だけをとらえるさま。「―に言う」
この続きは、次回に。