「人を動かす人」になれ! ㊿+15
68.不良品は不良社員がつくる。
わが社では一九七四年に幹部社員が率先して一年間便所掃除をやり、
その後の会議で、企業を運命共同体として考えていくなら便所掃除は
最高の基本教育だという結論を得た。以来、翌年に入社した新入社員
から、全員一年間は必ず便所掃除を担当するという伝統ができ上がって
いる。
掃除といってもモップや雑巾、ブラシといった用具は一切使わずに素手
でやる。便器についた他人の大便を素手で洗い落とし、ピカピカになる
まで磨き上げる。実際に、一年間便所掃除をやってみると、無神経な使い
方をする者が腹立たしく思えてくるようになる。そうすると、何もいわ
なくてもお互いがトイレをきれいに使おう、汚してはいけないという
気持ちになってくる。この習慣が身につくと、トイレだけでなく、工場や
事務所を汚したり、散らかしたままにする不心得者もいなくなる。
わたしは、これこそが「品質管理の原点」だと考えている。
不良品が出る理由はいろいろとあるが、行き着くところは六S、つまり
整理、整頓、清掃、清潔、躾、作法の不徹底が原因で起こっている。
机の上が散らかっている社員は例外なく仕事のミスが多いし、不良品を
出すのは決まって掃除の行き届いていない工場だ。もちろん、科学的な
根拠に基づく高度な品質の管理手法を学ぶことも大切であろう。
これはこれで積極的に取り入れていく必要があるが、その前に意識づけ
としてやっておかねばならないことがある。
汚れたからきれいにする。つまり、不良品が出たら直せばいいという
気持ちから、最初から汚さないようにする。すなわち、お互いが注意を
して不良品を出さないように気をつける。こうした風土をつくっていか
なければ、いつまでたっても不良品は減らないし、なくなりもしない。
わたしは、わが社の製品のなかに不良品があったと聞くと、すぐに現場に
駆けつける。そして工場内の整理、整頓、清掃が行き届いていれば比較的
穏便に済ます。しかし、汚なければ責任者を「不良品をつくるのは、
不良社員だ」といって徹底的に叱責する。
トラブルが起こりやすい職場は、たいがい汚れていることが多いし、
植物や生きものに水をやらないでいることも多い。生きものに水をやる
気づかいのない人間が、よい製品をつくっているとはとうてい思えない。
また、植物に水をやらない人間に部下を掌握することはできない。
すべてがここにつながってくるのである。
● 風土
人間の文化の形成などに影響を及ぼす精神的な環境。
「政治的―」「宗教的―」
● 穏便
物事をかど立てずおだやかに行うこと。また、そのさま。「―な処置」
● 掌握
《手ににぎる意》自分の思いどおりにすること。
全面的に自分の支配下に置くこと。「政権を―する」「部下を―する」
この続きは、次回に。