「人を動かす人」になれ! ㊿+24
79.トップの指示や方針を咀嚼(そしゃく)して、具体的な指示を出せ
仮に、ある会社の経営トップが幹部会議で「非常に厳しい経済環境に
なってきたので、全部門で一○%の経費節減を達成しよう」という指示を
出したとしよう。この指示が末端の社員までなかなか伝わらない企業が
ある。一方に、翌日には「一○パーセントの経費削減という社長の指示が
出た」とだけ社員全員に伝わっている企業があったとする。
一見すると、この両社には大きな開きがあるように映るかも知れない。
しかしどちらも五十歩百歩、両社とも遅かれ早かれ倒産してしまうだろうと
わたしは考えている。なぜなら、後者の上司はトップの指示を単にオウム
返しで部下に伝えたにすぎないからだ。果たしてこの会社の上司たちは、
自分の責任を全うしたといえるのであろうか。答えがノーであることは
明らかである。いかなる場合でもそうだが、リーダーが部下に指示を出す
ときには、噛み砕いて、より具体的なカタチにしなければ意味がない。
経費を一○パーセント削減するのであれば、A君ならこんな方法もあるし、
別のこういったやり方もある。またBさんにはまずこういった面を見直して、
次にはこんなところも改善してほしいといった具合に、トップの指示を
自分なりに咀嚼して、一人一人が何をすべきかを明確にして指示を出す。
これこそがリーダーの役割であり、責任でもある。だが、現実にはこう
したことのできないリーダーが多く、特に若いリーダーにこれが目立つ。
わたしは、これも最近の学校教育の弊害の一つなのかと、ふと思うことが
ある。つまり、丸暗記することはできても、アレンジしたり、相手の考え
ている本質から外れない範囲で自分の言葉に置き換えたり、自分流に解釈
できる人が少なくなっている。
これはかなり優秀なリーダーでも例外ではない。
国際化や規制緩和が進展していくなかで応用力が乏しい、あるいはその場
その時の状況に合わせて臨機応変な対応や判断ができないというのは、
これからのリーダーには致命的な欠陥となる。たとえば、いろんな商品に
しても、昔なら一○年ぐらいは寿命があったので、むしろトップを走る
より、ヒットした商品の二番煎じ、三番煎じで後を追いかけた方が安全で
確実だった。だが、いまの商品の寿命は半年から長くて一年といわれる。
つまり、常に業界の先頭を走っていなければ、すぐに落ちこぼれてしまう
ということだ。
先の例でいえば、翌日には社員全員がトップの指示を具体的な行動に
移せるような仕組みになっていなければ、これからの時代に企業は生き
残っていけない。より具体的な指示を与えて部下を動かすリーダーの役割が
ますます重要になっている。
● 五十歩百歩
《戦闘の際に50歩逃げた者が100歩逃げた者を臆病だと笑ったが、
逃げたことには変わりはないという「孟子」梁恵王上の寓話から》
少しの違いはあっても、本質的には同じであるということ。
似たり寄ったり。「10分遅刻も15分遅刻も―だ」
● 遅かれ早かれ
時期に遅い早いの違いはあっても。いつかは。早晩 (そうばん) 。
「―返事はよこすだろう」
● 噛み砕く
むずかしい内容をやさしい言葉を使ってわかりやすくする。
「趣旨を―・いて説明する」
● 咀嚼
言葉や文章などの意味・内容をよく考えて理解すること。
「名言を―して味わう」
● 臨機応変
その時その場に応じて、適切な手段をとること。また、そのさま。
「―な(の)処置」「―に行動する」
この続きは、次回に。