「人を動かす人」になれ! ㊿+36
91.勝者をより強くするよりも、敗者を勝者にするやり方を!
超精密小型モータの分野で七割以上の世界シェアを占めるなど、社業が
順調なため、最近ではいわゆる一流大学の成績優秀な学生、つまり勝者が
進んでわが社の門を叩いてくれるようになった。
新規採用に踏み切った創業三年目には、たった一人の応募者もなく、
その後も数年間は、大手はもちろん中堅、中小企業にさえも断られたと
いう、いわば出がらしのような学生(敗者)しか集まらなかった。
このことを考えると、まさしく隔世の感がある。
昔のわたしは敗者を勝者にするために、叱って叱って、叱りまくるという
捨て身の戦法を採ってきた。だが、勝者にはこのやり方は通じない。
すなわち、敗者を勝者にするのと、勝者をより強くするのとでは、おのずと
やり方が違うということである。
その一番の違いはプライドの問題だ。
もちろん敗者にもプライドはあるが、勝者のそれとは比較にはならない。
少し極端な言い方をすると、勝者は常に他人には負けたくない。
あいつにだけは負けるものかといった気持ちを持ち続けたからこそ勝者に
なれた。反対に、何かのきっかけでそうした気持ちを失い、怠けることや
楽をすることだけを覚え、勝つことを自ら放棄し、負けることにマヒして
しまった人の結果が敗者だ。つまり、敗者はプライドをどこかに置き忘れて
きたのである。
プライドという面だけから両者を見ると、敗者はそれほどこだわりがない
のに対して、勝者のそれは脆くて壊れやすい。
それだけに、勝者のプライドを傷つけてしまうと、立ち直るのに時間が
かかるし、ほかのいい面までつぶしてしまいかねない。
したがって、勝者をより強くするには、敗者よりもプライドを慎重に扱う
必要がある。たとえば、敗者なら一○分で叱るところを勝者なら一時間
かける。あるいは、口でガンガン叱るよりも、指摘すべきことは文書に
する。その内容も論理的でないと、なかなか納得しない。
世間一般の企業、特に大企業は敗者を勝者にするのは手間がかかるし、
面倒だと考えているようだが、わたしの考えは正反対だ。
むしろ、勝者をより強くする方がやっかいな面が多い。また、「歩」を
「と金」にするのと違って、「銀」を「金」にしたところでたかが知れて
いる。倒産しそうな会社を一流にするのにはいろんなやり方があるが、
優良企業を超優良企業にするには骨が折れるのと同じ理屈だ。
敗者の集まりを勝者の集まりに変えた集団と、最初から勝者の集まりで
ある集団とでは、イザというときに脆さを露呈するのは果たしてどちらの
集団であろうか。わたしは、いまの日本の現状が如実にそれを反映して
いると思っている。
● 隔世の感
かくせい【隔世】 の =感(かん)[=思(おも)い] 世の中が著しく変化したと
いう感じ。 時代がすっかり変わってしまったという感慨。
● プライド(pride)
誇り。自尊心。自負心。「―を傷つける」「仕事に―をもつ」
● 自尊心
自分の人格を大切にする気持ち。また、自分の思想や言動などに自信を
もち、他からの干渉を排除する態度。プライド。「―を傷つけられる」
● 自負心
自分の才能や仕事について自信を持ち、誇りに思う心。「―が強い」
● 論理的
1. 論理に関するさま。「―な問題について書かれた本」
2. 論理にかなっているさま。きちんと筋道を立てて考えるさま。
「―に説明する」「―な頭脳の持ち主」
● 論理
考えや議論などを進めていく筋道。思考や論証の組み立て。
思考の妥当性が保証される法則や形式。「―に飛躍がある」
● 骨が折れる
困難で苦労する。 面倒である。
この続きは、次回に。