「人を動かす人」になれ! ㊿+38
93.まず、自分がどういう人間か理解させろ!
経営者なんてソロバン勘定の合わないものだとつくづく思うのは、
M&Aで傘下に収めた企業の再建計画を進めているときだ。
三年ほど前に、第三者割当増資を引き受けて系列化した会社の場合は、
累積赤字の額が多かったこともあって、わたしの給与はゼロ。
それだけならまだしも、自分で机やイス、ロッカーを持ち込み、手弁当に
水筒まで下げてこの会社に通った。お茶一杯出してもらっても赤字が
膨らむと気をつかう一方で、幹部を連れて飲みにいくときはポケットマネー。
私利私欲どころか、完全なボランティア活動と割り切らなくてはそうそう
続くものではない。
これはつい最近の別の系列会社の例だが、納入業者に集まってもらって
個別に仕入価格のダウンをお願いしていった。
こうした、どちらかといえば誰かに肩代わりしてもらいたいような交渉事、
つまりイヤなことほど人任せではなく、先頭に立ってやっていく必要が
あるなど、文字通り孤軍奮闘の連続でもある。
社長室に座って、ただただ指示や命令を出すだけでは、人も組織も動かない。
まず、自分がどういう人間で、どういった目的でやってきたのかを理解
してもらわなければ、一切のことがはじまらない。
日本の社会風土のなかでM&Aを成功させようと思えば、これくらいの
気持ちが必要となる。損得や名誉などを考えるのであれば、M&Aは勧め
られないし、日本の会社のオーナー経営者にもなるべきではないという
のが、わたしの本音である。
ならばなぜ、自ら望んで会社を創業し、積極的にM&Aを行っているのか
といえば、最終的には「人が好き、会社が好き、部下が好きだから」と
いうことになるのだと思う。世間では敗者と評価されているような人の
闘争心に火をつけて勝者にしていく。倒れかかった会社の腐りかけた柱を
新しくして立派なものに立て直す。自信ややる気を失いかけている部下を
叱咤激励して夢と勇気を持たせる。
このような人や会社、そして部下が大変身を遂げ、強く、たくましくなって
いく姿を眺めるのが、わたしの最高の喜びであり、生きがいでもあるからだ。
もし、人も会社も部下も変わらない、いや変えられないのであれば、いくら
物好きなわたしでも、わざわざ火中の栗を拾うような真似はしないだろう。
● 私利私欲
自分の利益を第一に考え、それを満たそうとする気持ち。
● 孤軍奮闘
孤立した少数の軍勢でよく戦うこと。 また、援助するものもない中で、
ひとりで一所懸命に努力すること。
● 闘争心
闘争したり戦ったりすることに対する意欲や気持ち、などの意味の表現。
● 闘争
相手に勝とうとして争うこと。争闘。「―本能」「武力―」
● 叱咤激励
大きな声で励まし、元気づけること。「監督が選手を―する」
● 火中の栗を拾う
自分の利益にならないのに、危険をおかすことのたとえ。 また、危険を
承知で、あえて問題の処理や責任ある立場を引き受けることのたとえ。
[由来] 一七世紀のフランスの詩人、ラ・フォンテーヌの「 寓話 」に
よって知られる、「猿と猫」という話から。
この続きは、次回に。