「人を動かす人」になれ! ㊿+39
94.私が社員を自宅に呼んで食事をする理由
最近は忙しくてできなくなってしまったが、かつては正月はもとより日曜や
祭日になるとよく社員をわが家に呼んだものだ(いまは幹部社員がこれを
やっている)。そのなかには、仕事に情熱を燃やせなかったり、遅刻や
欠勤が目立つ、あるいは「辞めたい」といってきた連中も多かった。
一方で、若手や中堅の社員と信頼関係を築くためのコミュニケーションも
頻繁に行っていた。
会社では叱ったり、怒鳴りつけてばかりいたわたしだが、自宅では笑顔で
いることが多く、特に食事のときは楽しい話で食卓を盛り上げた。
たまに社員を自宅に呼んで叱ったこともあるが、それまでいくら激しく
叱っていたとしても食事のときだけは一切イヤな話はしない。
夫婦揃ってわが家にやってくる社員も多かったが、わたしと初対面の社員の
奥さんは、たいてい「社長は恐い」とか「いったん雷が落ちたらしばらくの
間は手がつけられない」と聞かされている。
わたしはそんな素振りも見せないので、帰ってから「どこが恐いの。
ニコニコして、いい社長じゃないの」ということになるらしい。
「家内には、『社長のあの笑顔がクセものなんや』とか『社長は二重人格や』
と答えておきました」と、わざわざ伝えにきてくれる社員が何人かいた。
わたしが社員をわが家に呼ぶ理由はここにある。
こうして、自分が奥さんと交わしたプライベートな会話をわざわざ伝えに
きてくれる。これが、社長と社員の信頼関係を築いていく第一歩になる
からだ。だが、何か問題を抱えている社員はなかなかこうは行かない。
それこそ家の者が「あれだけやったのに」とため息をつくことの方が
多かった。何度も何度も自宅に呼んで、朝から晩まで話し合ったにも
かかわらず、結局はうまく行かなかったという例は数え切れない。
こうした事情をよく知っていた幹部社員のなかには「社長、熱心なことは
わかりましたが、ほどほどにしておかれたらどうですか」とアドバイス
してくれたこともあった。しかし、わたしは頑固にやり通した。
経営は結果(数字)がすべてだし、ムリ、ムダ、ムラは徹底的に取り除いて
いかなければならない。だが人は違う。
結果だけから成否は判断できないし、人に関するかぎり「ムダ」という
言葉はない。たとえ一○○人のうち一人でも変わってくれる可能性がある
のなら、その一○○人全員にやれることはすべてやってみるというのが
わたしの信念である。
● 頻繁
しきりに行われること。しばしばであること。また、そのさま。
「―に手紙をよこす」「車の往来が―な通り」
● プライベート(private)
[形動]個人的な物事であるさま。公のものでないさま。私的。
「―な用件で早退する」
[補説]「仕事とプライベートを区別する」「プライベートを明かす」
などのように、「私生活・私事 (しじ) 」の意で名詞的に用いることが
ある。
● 成否
事が成ることと成らないこと。成功するか失敗するか。
「結果の―は問わない」
● 信念
正しいと信じる自分の考え。「―を貫き通す」「固い―」
この続きは、次回に。