ピーター・F・ドラッカー「経営者の条件」④
✳️ なされるべきこと、組織のことを考える
第一に身につけるべき習慣は、なされるべきことを考えることである。
何をしたいかではないことに留意してほしい。
なされるべきことを考えることが成功の秘訣である。
これを考えないならばいかに有能であろうとも成果をあげることはできない。
1945年にトルーマンが大統領に就任したとき、したいことははっきりしていた。
第二次世界大戦で頓挫していたフランクリン・D・ローズヴェルト大統領の
ニューディール政策なる経済社会改革を仕上げることだった。
しかし、なされるべきことを考えたとき、最優先課題は外交であることを
知った。そこで彼は、担当閣僚から外交と軍事について説明を受けることを
毎朝の日課とした。こうして彼は、アメリカの外交史上最高の成果をあげた。
ヨーロッパとアジアで共産主義を封じ込め、マーシャル・プランによって
半世紀に及ぶ世界経済の発展をもたらした。
同じようにジャック・ウェルチがGE(ゼネラル・エレクトリック)のCEOに
就任したとき、会社にとってなされるべきことは、自分がしたかった事業の
海外展開ではないことを知った。
それは、いかにいま利益があがっていようとも、世界で一位あるいは二位に
なる価値のない事業から手を引くことだった。
なされるべきことはほとんど常に複数である。しかし成果をあげるには
手を広げてはならない。一つのことに集中する必要がある。
若干の気分転換を必要とするというのであれば、二つのことを行っても
よい。しかし三つ以上のことを同時にこなせる者はいないはずである。
したがって、なされるべきことを考えたならば、そこに優先順位を付け、
それを守らなければならない。
CEOにとって最優先課題は、組織全体のミッションを定義し直すことかも
知れない。部門長にとっては、本社との関係を見直すことかもしれない。
となれば、他のことはすべて後回しにしなければならない。
しかし、その最優先順位を仕上げても、優先順位が二位だった課題に
自動的に移行してはならない。最初から優先順位を考え直さなければなら
ない。「では、いまなされるべきことは何か」と考えなければならない。
通常はまったく新しい課題が浮上してくる。
ウェルチの場合は、次の五年間に集中すべきことを決めるにあたって、
もう一つ別のことを考えていた。GEにとっての優先順位を二つか三つ
決めたあと、自らが得意とするものはそれらのうちのどれかを考えた。
そしてその課題に集中した。残ったものは、トップマネジメントの誰かに
任せた。
成果をあげるには、このように自らが得意とするものに集中しなければ
ならない。トップマネジメントが成果をあげれば組織が成果をあげ、
トップマネジメントが成果をあげられなければ、組織も成果をあげられ
ないからである。
成果をあげるために身につけるべき第二の習慣、第一の者に劣らず大切な
習慣が、組織にとってよいことは何かを考えることである。
株主、従業員、役員のためによいことは何かを考えるのではない。
もちろん株主、従業員、役員は、必ず支持を得、あるいは少なくとも同意を
得るべき重要なステークホルダー(関係当事者)である。
株価は、株主にとってだけでなく、PER(株価収益率)を通じて資本コストを
左右するがゆえに、会社にとっても重要である。
しかし、そもそも組織としての会社にとってよいことでないかぎり、
他のいかなるステークホルダーにとってもよいこととはなりえない。
この第二の習慣は、特に同族企業の人事において重要である。
同族企業が繁栄するには、同族のうち明らかに同族外の者よりも仕事ぶりの
勝る者のみを昇進させなければならない。
デュポンでは、同族色の強かった初期の頃は、監査役と法務部長以外の
トップマネジメントは全員同族だった。しかしその地位に上ることの
できないのは、非同族による委員会において能力と仕事を認められた者
だけだった。
これと同じ原則は、イギリスの名門食品会社J・ライオンズでもほぼ100年の
間守られた。組織にとってよいことは何かを考えても、正しい答えが
えられるとは限らない。いかに頭がよくとも、先入観にとらわれて間違いを
犯すことはある。しかしこれを考えないならば間違った結果になることは
心定である。
● 留意
ある物事に心をとどめて、気をつけること。「健康に―する」「―点」
この続きは、次回に。