ピーター・F・ドラッカー「経営者の条件」㉗
P.F. Drucker Eternal Collection 1
The Effective Executive
Chapter:2
第2章❖汝の時間を知れ
□ 時間は普遍的な制約時間
通常、仕事についての助言は「計画せよ」から始まる。もっともらしく
思えるが、問題はそれではうまくいかないところにある。
私の観察では、成果をあげる者は仕事からスタートしない。
時間からスタートする。計画からもスタートしない。
時間が何にとられているかを明らかにすることからスタートする。
次に時間を管理すべく、時間に対する非生産的な要求を退ける。
そして最後にそうして得られた自由になる時間を大きくまとめる。
したがって、時間を記録する、整理する、まとめるの三段階にわたる
プロセスが、成果をあげるための時間管理の基本となる。
成果をあげる者は、時間が制約要因であることを知っている。
あらゆるプロセスにおいて、成果の限界を規定する者は最も欠乏した
資源である。主要な資源のうちでは、資金は豊富にある。
経済発展や経済活動の阻害要因になっている者は、資金供給ではなく
資金需要であるとさえいってよい。もう一つの資源である人材は、雇う
ことができる。ところが時間は、借りたり、雇ったり、買ったりして
増やすことができない。
時間の供給は硬直的である。需要が大きくとも供給は増加しない。
価格もない。限界効用曲線もない。簡単に消滅し、蓄積もできない。
永久に過ぎ去り決して戻らない。したがって時間は常に著しく不足する。
時間は他のもので代替えできない。ほかの資源ならば、限界はあっても
代替できる。アルミの代わりに銅で代替できる。労働の代わりに資本で
代替し、肉体の代わりに知識で代替できる。時間にはその代わりになる
ものがない。
時間はあらゆることで必要となる。時間こそ真に普遍的な制約条件である。
あらゆる仕事が時間のなかで行われ、時間を費やす。しかしほとんどの
人が、この代替できない必要不可欠にして特異な資源を当たり前のように
扱う。おそらく時間に対する愛情ある配慮ほど成果をあげている人を
際立たせるものはない。
しかし一般に人は時間を管理する用意ができていない。
飛行機で大西洋を横断するとわかるように、ほかの動物と同様、人にも
生物的な体内時計がある。しかし心理学の実験が示すように、人には正確な
時間感覚はない。特に太陽光の明暗から遮断された部屋に置かれると急速に
時間の感覚を失う。空間感覚は闇でも保てる。だがたとえ電気をつけて
いても、何時間も密閉された部屋に置かれるとたいていの人が時間感覚を
失う。経過した時間を過大に評価したり過小に評価したりする。
われわれはどのように時間を過ごしたかを記憶に頼って知ることはでき
ない。
記憶自慢の人に時間をどう使っていると思うかをメモしてもらい、その
メモを何週間か預からせてもらう。その間実際に時間の記録をとってもらう。
思っていた時間の使い方と実際の記録は似ていたためしがない。
ある会社の会長は時間を大きく三つに分けていると自分では思っていた。
三分の一は幹部との時間、あとの三分の一は大切な客との時間、残りの
三分の一は地域活動のための時間だった。六週間にわたって記録をつけて
もらったところ、これら三つの活動のいずれに対してもほとんど時間を
使っていないことがわかった。例によって都合のよい記憶なるものが、
実際にそれらの仕事に時間を使っているように思い込ませていたのだった。
例えばこの人は、かなりの時間を友人の顧客からの注文に早く応えるよう
工場に催促の電話をすることに使っていた。しかも注文はいつも円滑に
処理されており、彼の干渉はむしろ仕事を遅らせる原因になっていた。
秘書が時間の記録を示しても会長は信じなかった。
記憶よりも記録のほうが正しいことを納得させるために、二回、三回と
さらに時間の記録をとらなければならなかった。
時間を管理するには、まず自らの時間をどのように使っているかを知ら
なければならない。
この続きは、次回に。