ピーター・F・ドラッカー「経営者の条件」㉘
□ 必要とされる時間
時間を無駄に使わせる圧力は常に働いている。何の成果ももたらさない
仕事が時間の大半を奪っていく。ほとんどは無駄である。
地位が高くなれば、その地位がさらに時間を要求する。
ある大会社の社長は、社長就任後の二年間、クリスマスイブと元旦の夜
以外は会食だったそうである。しかもほとんどが数時間かかる公式の会食
だった。どれも断れないものだった。永年勤続の退職者のためのもので
あろうと、進出先の州の知事のためのものであろうと、社長としては出席
しなければならなかった。社交は彼の仕事だった。
彼は、それらの会食が会社のためにも自らの楽しみや自己開発にも、
たいして役に立っていないことを自覚していた。
それでも彼は、毎晩会食に出て愛想よく食事をしなければならなかった。
仕事には、時間を無駄にするものがたくさんある。上得意からの電話に
向かって販売部長が「手がふさがっている」とはいえない。
土曜のブリッジがどうだったかという話であろうと、娘が希望の大学に
入れそうかという話であろうと、耳を傾けなければならない。
病院長は病院内のあらゆる会議に出なければならない。出なければ、医師や
看護師や理学療法士が軽視されていると思う。
政府機関の長は、議員が電話してきて電話帳や年鑑で簡単にわかることを
聞いても、ていねいに応対したほうがよい。そのようなことが一日中続く。
誰でも事情は変わらない。成果には何も寄与しないが無視できない仕事に
時間をとられる。膨大な時間が、当然に見えながら実はほとんど、あるいは
まったく役に立たない仕事に費やされる。
しかも仕事のほとんどは、わずかの成果をあげるためでも、かなりの
まとまった時間を必要とする。細切れでは意味がない。
何もできず、やり直さなければならなくなる。
報告書の一次原稿の作成に六時間から八時間を要するとする。
しかし一日に二回、一五分ずつを三週間充てても無駄である。
得られる者はいたずら書きにすぎない。
ドアにカギをかけ、電話線を抜き、まとめて五、六時間取り組んで初めて
下書きの手前のもの、つまりゼロ号案が得られる。
その後ようやく、比較的短い時間の単位に分けて、章ごとあるいは節ごと、
センテンスごとに書き直し、訂正し、編集して筆を進める。
実験についても同じことがいえる。装置をそろえてひととおりの実験を
行うには、五時間ないし一二時間を一度に使わなければならない。
中断すると初めからやり直さなければならない。
● コントラクト‐ブリッジ(contract bridge)
トランプゲームの一。四人が二人ずつ組んで、せりで親と切り札を決め、
13回のうち何回勝つかを親が約束してから開始するもの。ブリッジ。
● 軽視
スル軽くみること。軽く考えて、その価値や影響力を認めないこと。
「人命を―する風潮」⇔重視。
この続きは、次回に。