お問い合せ

ピーター・F・ドラッカー「経営者の条件」㊳

□ 自由になる時間をまとめる

 

時間を記録して分析し、仕事を整理するならば、重要な仕事に割ける時間を

把握できる。真の貢献をもたらす大きな仕事に利用できる自由な時間は、

実際にはどのくらい残るか。実は、時間浪費の原因となっているものを

容赦なく切り捨てていっても、自由になるまとまった時間はさほど多くは

ない。

 

私が会った人の中で時間の管理に最も優れていたのは、私がトップマネジ

メントの仕事について相談を受けていたある大銀行の頭取である。

私は月に一度、二年間にわたって彼と会っていた。

面会時間はいつも一時間半だった。彼はいつも準備しており、私も同じ

ように準備していた。

話はいつも一つに絞っていた。一時間二○分ほど経つと、「ドラッカー

さん、ここでお話を要約して、来月何を取り上げるかいってください」と

いわれた。部屋に通されて正確に一時間半後、彼は決まってドアのところで

握手をしながら、さようならをいった。

一年ほどして、「なぜいつも一時間半なのですか」と聞いたところ、

「簡単なことです。私の注意力は一時間半しか持たないからです。それ

以上同じ問題に取り組んでいると同じことを繰り返し始めます。しかし、

一時間半より短いと重要な問題に取り組めません。話していることの意味が

わかるところまでもいけません」との答えだった。

月に一度の一時間半のミーティングの間、電話がかかってきたことや秘書が

顔を出して客が来たと告げたことは一度もなかった。ある日そのことも

聞いてみたところ、「大統領と妻以外は取り次ぐなといってあります。

大統領が電話してくることなどないし、妻も私のことは承知しています。

ほかのことは終わるまで秘書が抑えておいてくれます。ですから、いつも

このあと三○分は、電話をかけてきた人に電話をして用向きを聞くことに

しています。一時間半待ってもらえないことはまだ起こっていません」と

答えた。いうまでもなくこの頭取は、ほかの有能なエクゼクティブたちが

会議漬けの一か月で得るよりもはるかに多くのものを、この月一回の私との

面会で手に入れていたと思う。

 

しかしこの自己規律の強い人でさえ、自らの時間を少なくとも半分は、

さほど重要でもないが避けることのできないことにとられているといって

いた。立ち寄ってくれた重要な客に会ったり、彼がいなくても進行する

会議に出たり、上がってくるべき出ないにもかかわらず上がってくる日常の

問題について、個別具体的な決定を行ったりしていた。

自らの時間の半分以上をコントロールし自由に使っているなどという者は、

実際に自分がどのように時間を使っているかを知らないだけである。

組織のトップにいる人たちには、重要なことや、貢献につながることや、

報酬を払われていることに使える自由な時間など四分の一もない。

これはあらゆる組織についていえる。特に、政府機関の上層部に対する

非生産的な時間の要求は、他の種類の組織よりも大きい。

地位が上がるほど、管理のしようのない時間、しかもいかなる貢献ももたら

さない時間の割合が大きくなる。組織が大きくなるほど組織を機能させ

生産的にするための時間ではなく、組織を維持し運営するための時間が

多くなる。

成果をあげるには自由に使える時間を大きくまとめる必要がある。

大きくまとまった時間が必要なこと、小さな時間は役に立たないことを

認識しなければならない。たとえ一日の四分の一であっても、まとまった

時間であれば重要なことをするには十分である。逆にたとえ一日の四分の

三であってもその多くが細切れではあまり役に立たない。

したがって時間管理の最終段階は、時間の記録と仕事の整理によって

もたらされた自由な時間をまとめることである。

時間をまとめるには方法がある。ある人たち、なかでも年配の人たちは、

週に一日は家で仕事をしている。編集者や研究者がよく使う方法である。

ある日とは会議や打ち合わせなど日常の仕事を週に二日、例えば月曜日と

金曜日に集め、他の日特に午前中は重要な問題についての集中的かつ

継続的な検討に充てている。

 

 

この続きは、次回に。

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