ピーター・F・ドラッカー「経営者の条件」㊺
アメリカの国防長官としてロバート・マクナマラが大きな成果をあげた
のは、「どのような貢献ができるか」を自問したためだったように思わ
れる。しかし実のところ彼は、一九六○年の秋、ケネディ大統領によって
フォード社から引き抜かれ最も難しい閣僚の座につけられたとき、準備が
できていなかった。
彼はフォードでは内部管理の人間だった。そのため政治的な動きが苦手で、
最初のうちは議会工作は部下たちに任せていた。しかし彼は、数週間も
しないうちに国防長官の仕事には議会の理解と支持が不可欠であることを
知った。
その結果、彼のように内向きで非政治的な人間には、困難なだけでなく
億劫であったに違いない活動、すなわち各委員会の有力者と交友関係を
深め、議会工作という不思議なスキルを駆使することに自らを駆り立てた。
彼は議会との折衝に完全な成功を収めたわけではなかった。
しかし、彼以前の歴代の国防長官の誰よりも成功した。
マクナマラの例は、地位が高くなれば外部の世界への貢献が大きな比重を
もつようになることを示している。しかも外の世界で自由に動き回れる
のは、地位の高い者しかいない。
今日、アメリカにおける大学総長の最大の問題は、おそらく学内管理や
募金活動に焦点をあわせすぎていることにある。
しかし総長ほど大学の顧客たる学生たちと自由に接触できる者はいない
はずである。一九六五年のカリフォルニア大学バークレー校の騒動の背景に
あった学生の不満や不安は、大学当局が学生たちと疎遠になっていることに
主たる原因があった。
この続きは、次回に。