ピーター・F・ドラッカー「経営者の条件」㊾
□ 人間関係のあるべき姿
対人関係の能力をもつことによって良い人間関係がもてるわけではない。
自らの仕事や他との関係において、貢献に焦点を合わせることによって
良い人間関係がもてる。そうして人間関係が生産的となる。
生産的であることが、よい人間関係の唯一の定義である。
仕事上の関係において成果がなければ、温かな会話や感情も無意味である。
貧しい関係のとりつくろいにすぎない。逆に関係者全員に成果をもたらす
関係であれば、失礼な言葉があっても人間関係を壊すことはない。
私が知っている中で最もよい人間関係をもっていた者は誰かを問われる
ならば、次の三人を挙げる。
第二次世界大戦中の参謀総長ジョージ・C・マーシャル将軍、一九二○年代の
初めから五○年代の中頃にかけてGMのトップをつとめたアルフレッド・
P・スローン・ジュニア、スローンの部下で、不況のさなかにキャデラックを
高級車として成功させたニコラス・ドライスタットである(ドライスタットは、
もし第二次世界大戦の直後に亡くならなかったら、五○年代にはGMの
トップになっていたはずの人である)。
彼ら三人は、これ以上違いようがないほど違っていた。
マーシャルはまさに職業軍人であって、謹厳実直をもって知られていた。
スローンは高級官史風であって、あくまでも礼儀正しかった。
ドライスタットは典型的なドイツ職人であって人情味にあふれていた。
その彼らが三人とも、同じように誰からも愛され敬われていた。
三人ともそれぞれの仕方で、上司、同僚、部下との関係を、貢献を中心に
築いていた。三人とも多くの人たちと緊密な関係をもって働いた。
人事について厳しい決定を行った。しかし一人として、人間関係に悩む
ことはなかった。いずれも当たり前のこととして素晴らしい人間関係を
もっていた。
この続きは、次回に。